地蔵菩薩三国霊験記 6/14巻の6/22
六無双の法門を示し玉ふ事
中比(なかごろ)鎌倉の住人武人(もののふ)二人あり。相約して萬用等しく行ふ。然るに宿善の動かすところか平日地蔵菩薩を信じ二人志を同じくして随分修行を盡せり。されば一行一修相異事なきに二人は貧にして尊像を迎へ奉るも相好善らざるを安置し香花供養をなす。一人は富澤にして形像美を尽くし供具善を尽くせり角して年月を送る中に貧富死生天命に親疎なく富たる人早く過去せり。遺言して生平渇仰せる地蔵尊を朋友の信に譲也と云々。帰依の佛像と云ひ友の形見と云ひ人方ならず思ひけり。自身の像は荘厳疎かなるを悪み、傍に打ち捨て目をだに見やらざりければ有時夢に彼の像出現ありて
「世を救ふ心は我も有るものを 権(かり)の姿は兎にも角にも」
と詠吟し給ふと思へば夢覚めぬ。急ぎ驚き同じく厨子に入り奉り供具尊敬俱に等しくす。是則ち新古を恨み給ふにあらず。亦取捨の相をなげき思召すにあらず。唯衆生驕慢恣盛にして諸法空寂無我を知らず邊域虚仮の行とならん事を哀しみ玉ひ真実心地の要を示し給ふならんか。
引証。延命地蔵經に云、佛、帝釈に告げ玉はく、善男子諸法は空寂、消滅に住せざるも縁に随って生ずるが故に色身同じからず、
性欲無量なれども普く得度を為す云々(仏説延命地蔵菩薩経「佛告帝釈「 善男子、諸法空寂、不住生滅、随縁生の故に色身不同にして性欲無量なれども普く得度を為したまふ。延命菩薩は或は佛身を現し或は菩薩身を現し或は辟支佛身を現し或は聲聞身を現し 或は梵王身を現し或は帝釈身を現し或は閻魔王身を現し或は毘沙門身を現し或は日月身を現し或は五星身を現し或は七星身を現し或は九星身を現し或は轉輪聖王身を現し或は諸小王身を現し或は長者身を現し或は居士身を現し或は宰官身を現し或は婦女身を現し 或は比丘比丘尼優婆塞優婆夷身を現し或は天龍夜叉人等身を現し 或は醫王身を現し或は薬草身を現し或は商人身を現し或は農人身を現し或は象王身を現し或は師子王身を現し或は牛王身を現し或は馬形身を現し或は大地形を表し或は山王形を現し或は大海形を現す。三界のあらゆる四生五形は變ぜざるところなし。延命菩薩は如是に法身自體遍きが故に種種身を現じ六道に遊化し衆生を度脱したまふ」)。