今日承和元年九月十五日は大師が「高野四至啓白文」をお作りになった日です。
「高野四至啓白文
葱嶺(青々と聳える山山)銀漢(天の川)を挟み、白峰碧落に衝けり。吾れ居住の時、頻りに明神の衛護あり。すなわち山の四至を限って、永く三宝に獻って仰信の情を表すと云々。
査(うきき、浮木)に乗るによらずして忽ちに雲漢に入り、妙薬を嘗めずして神窟を見ることを得たり。一度は喜び、一度は悲しんで、心魂持ちがたし。
山の状たらく、東西は龍の伏せるがごとくして、東流の水あり。南北は虎の踞れるが如くして棲息するに興あり。妙高を指してもって儔(ともがら)とし、輪鉄を引いて席となせり。日光、地より出て天眼を仮らずして万里目の前なり。何ぞさらにこく(不明)に乗らん。砌の中の圓月を見て、普賢の鏡智を知り、空裏の恵日を仰いで遍智の我にあることを覚る。
この勝地についていささか伽藍を建て、金剛峰寺と名つ゛く。ここに住して道を修し四上持念(一日四回上堂して祈念する)す。華蔵を心海に観じ(大日如来の蓮華蔵世界を観想し)実相をこの山(高野山)に念ず。もって神威を崇めて国皇の福をゆたかにせん。所有の佛業縷しく説くことあたわず。日車駐りがたく、人間変じ易し。従心忽ちに至って四蛇空しくつかる。摂誘(摂化)ここに務めて能事畢んぬ。
承和元年九月十五日金剛峯寺 大僧都空海書す」
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