[HRPニュースファイル499]
日銀法改正の意義
日銀法とは何か
安倍首相が金融緩和だけではなく、日銀法改正も口に出し始めました。そこで、今回は日銀法改正の意義を検討していきます。
内閣官房参与の経済担当として入閣が予想されているイェール大学の浜田宏一名誉教授が参画する意義は、前回のHRPニュースファイル492で述べました。
浜田教授の最新刊『アメリカは日本経済の復活を知っている』(講談社)を紐解くと、やはり日銀法の改正にも言及されていますので、後ほど紹介します。
まず、問題となる日銀法のどこが問題なのでしょうか。
現在の日銀法は、正確には「新日本銀行法」と呼ばれています。97年に成立し、98年から施行されています。その中で、第三条の一には次のように明記されています。
「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。」
文章だけを見れば別におかしなことは何もありません。ただ、背景事情を知ることで違う世界が見えてきます。というのは、日銀は旧大蔵省の影響下で金融政策は制限されていたため、独立性の確保は日銀の念願だったからです。
現在、大蔵省は財務省に名前を変えて金融政策にはほとんど関与しなくなりました。いわゆる「財金分離」と呼ばれ、増税や財政出動は財務省が、金融政策は日銀、金融監督は金融庁が担当することになりました。
98年当時では、独立性の高い中央銀行を持っていれば、マクロ経済の安定に寄与するという研究が主流でした。
実際、筆者が大学院生時代には、若田部昌澄教授(当時は助手)が主催した勉強会で、カルフォルニア大学バークレー校のD・ローマー教授が執筆したAdvanced Macro Economics(翻訳は『上級マクロ経済学』日本評論社。今でも必読テキストの一つ)を使っていました。
このテキストでも、独立性の高い中央銀行とマクロ経済の安定は正の相関関係にある実証研究が紹介されていました。
日銀の最大の目的は物価の安定
日銀の金融政策の最大の目的は「物価の安定」です(本年他界された三重野康元日銀総裁の霊言『平成の鬼平へのファイナル・ジャッジメント』でも同じことを述べていた)。
日銀法第二条には、「日本銀行は通貨及び金融の調節を行うにあたっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全なる発展に資することをもって、その理念とする」と書かれています。
この条文も、それ自体は正しいのです。 しかしながら、日銀マンは物価の安定こそが大事であって、経済成長や雇用に関する優先順位は低い と言わざるを得ません。
すると、何が起きるか、簡単な思考実験をしてみましょう。
アベノミクスが効果を発揮して消費者物価指数が1%を超えたとします。日経平均株価も1万を超えて1万5千を超す状態が起きました。
典型的な日銀総裁ならば、「インフレ懸念」があると称して引き締めに入ろうとします。その結果、景気が悪くなっても、物価の安定が達成されれば問題がないと考えるのが日銀なのです(実際、2006年の金融引き締めが不況をもたらしたことは、高橋洋一教授らが指摘している)。
しかしながら、世界のほとんどの中央銀行には、経済成長と完全雇用の維持が明記されています。その代わり、目標達成の手段は自由です。中央銀行の独立性とは、目標達成の手段に関することなのです。
一方、日銀の目的は物価の安定のみです。だからこそ、20年間の平均経済成長率がゼロでも、日銀は動こうとしなかったわけです。
最近に来てようやく重い腰を上げ始めましたが、不十分です。これでは、世界の趨勢からは逸脱していると言わざるを得ません。
日銀法改正の論点
日銀にはマクロ経済指数(インフレ率や失業率、経済成長率等)に対して結果責任がないので、日銀特有の内部論理がまかり通るのです。現在の新日銀法は、日銀の内部論理を法律によって保証してしまったようなものです。
だからこそ、安倍総裁や浜田氏らの経済学者から日銀法改正が提案されているわけです。
他には、学習院大学の岩田規久男教授や嘉悦大学の高橋洋一教授、早稲田大学の若田部昌澄教授が日銀法改正の理論的発信をしています。
また、自民党の山本幸三議員らの国会議員有志でも日銀法改正に向けて動ける議員が一定数います。彼らの主張は、以下の3つに集約されます(浜田氏同書p.177参照)。
1.雇用の維持を政策目標にする
2.金融政策への結果責任を明記する
3.インフレ目標を義務付ける
幸福実現党も日銀法の改正は衆院選で明記し、日銀総裁その他役員の罷免権を主張しました。
当然の如く、銀の白川総裁を始め、強烈な抵抗をするのは目に見えています。同時に、日銀寄りのマスコミや御用学者からの批判も多く出ることは必至ですが、日銀法改正の最大のチャンスがやってきたのは間違いありません。
安倍首相の断固とした取り組みを期待するとともに、日銀側も本来の独立性とは何かを再考して頂きたいと祈念します。 (文責・中野雄太)
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