日々の恐怖 11月4日 R163(4)
私は男の人の喋り方に、なにか形容しがたい違和感を覚えました。
言葉は完全に私に向けてなのですが、なんというか、私に話しかけているというより、ずっと一人で喋っている感じなのです。
大きすぎる独り言、と言うとイメージしやすいかと思います。
大体察してもらえるかと思いますが、男の人は田舎特有の古風な話し方でした。
車はやがてトンネルを抜け、両脇が木々に囲まれた一本道を突き進み始めました。
私は、自分が誘拐されてしまい、どこか知らないところに連れていかれるのではないかと思い、勇気を振り絞って何かを言おうと思いましたが、こういう時に限って何も言葉は出てきません。
でもこうしている間にも窓の外の景色はどんどん木々を濃くしているようで、そっちの方が恐ろしくなり、私は蚊の鳴くような声で、
「 あなたは誰ですか?」
と言ってみました。
すると今まで喋り倒していた男の人がぴたりと黙り込みました。
私はもう泣きそうになって、冷や汗がとめどなく流れ、心臓がばくばくと波打ち、本格的に気分が悪くなってきたので、その勢いで、
「 車酔いで吐き気を催したので、降ろしてほしい。」
と言いました。
男の人は黙ったままでしたが、その後路肩に停車してくれました。
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