日々の恐怖 5月29日 梅の古木(3)
祖母の言う通り、梅の古木の下は先程の賑やかさが嘘のように静まり返っていた。
そして少女は今度こそ無事に、父親のお使いを果たすことができたという。
「 梅の木の下では、春の訪れを寿ぐ宴が行われていたそうです。
祖母は運悪くそこに居合わせて、いたずらをされたんでしょうね。」
彼女は、祖母の不運の真相をそう語ってくれた。
「 宴を開いていたのは、神様ですか?」
「 さあ、それはわかりません。
祖母が言うには、皆さん人間に見えたそうですけど。」
「 それにしても、おばあさまのおばあさまは、さすが年の功ですね。
そういう言い伝えは、昔からあったんでしょうね。」
私が感心して言うと、彼女は少し意味ありげに笑った。
「 本当か嘘かはわかりませんが、祖母の祖母という人は、不思議なものを見る力があったそうです。
小遣い稼ぎに占いなんかをして、当時はよく当たると評判だったそうですよ。」
「 はぁ・・・。」
「 話に出てきた梅の古木は、まだ健在です。
ですが私は祖母以外から、その梅の木にまつわる不思議な話を聞いたことは、ありません。」
彼女はにっこりと微笑んだ。
私の鼻腔を、幻のように梅の香が通り抜けていった。
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