日々の恐怖 5月8日 お参り(2)
“ 一言挨拶してこの列から離れるか・・・。”
しかし、Sさんは声を発してこの人達の注意を自分に向けさせるのは、何故か怖ろしいことのように感じたという。
“ このまま神社までついて行って、母と帰ってくるか・・・・。
などと考えていると、Sさんの斜め前を歩いていたおばあさんが急に振り向き、人差し指を口に当て、無言のまま、
“ し~ぃ・・・・・。”(静かに。)
という恰好をした。
そして、列から離れるよう手振りで示した。
そのままSさんはゆっくり列から離れ、その行列が社の方角に進んで行くのを見送った。
列から離れる時、おばあさんはSさんに向かってにっこり微笑み、Sさんも懐かしさを感じながら会釈した。
そこではじめてSさんは、誰も足音を立てていなかったこと、誰も懐中電灯を持っていなかったのに、行列全体がぼんやりと薄明るかったことに気がついたという。
家に帰り着いたSさんは、お参りに参加しているはずの母親が居たことに驚いた。
更に驚く事に、回復祈願の当人が手術中に死亡した為、お参りは中止になったというのだ。
“ お参りはなかった。
では、私が出会ったあの行列は何だったのか?”
そこまで考えた時、Sさんは、
「 あっ!?」
と声を上げた。
歩いていた最中に感じた引っ掛かたものだ。
“ あの行列の真ん中辺りにいたのは、この夜手術中に亡くなった人ではないか!”
そして、Sさんにこっそり列から離れるように指示してくれたおばあさんは、Sさんが子供の頃、Sさんを孫のように可愛がってくれた近所のおばあさん(故人)だったそうな。
そして、あの行列が向かっていった先には、たしかに神社もあるが村の墓地もある。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ