日々の恐怖 7月4日 左手(3)
彼女は祠に手をつっこむと無造作に石を掴み、
「 ねえ、せっかくだから、おみやげにこれ持って帰ろうか?」
と、Kさんに差し出した。
Kさんは彼女から石を受け取ると、
「 やめとけよ、バカらしい。」
と言いながら、元に戻せば良かったのに、石を林の奥に放り投げてしまった。
肝試しはこれで終わったが、その翌日に大事件が起こった。
電車通学だったKさんは、いつものように駅で彼女と待ち合わせ、2人で電車が来るのを待っていた。
ホームでの彼女はかなり様子が変だったらしい。
酔っ払ったようにふらふらしてて、今にも倒れそう。
「 おい危ないぞ。
体調悪いのか?」
心配するKさんの問いかけに彼女は、
「 大丈夫、大丈夫。」
と言うだけで相変わらずふらふらしている。
そのまま彼女は身体を揺らしながら、線路に落ちそうになった。
「 危ない!!」
Kさんは左手で彼女の腕を掴み、転落を阻止する。
が、なぜか左手がKさんの意思に反して、一旦掴んだ彼女の腕を放してしまった。
彼女はそのまま倒れ込み、上半身がホームからはみ出たところを入線してきた電車にはねられた。
突然の出来事にKさんはへたり込み、泣きながら彼女の名前を呼び続けていた。
不幸中の幸いか、周囲にいた人達がKさんは彼女を助けようとしていたと証言してくれたおかげで、事件は不幸な事故として処理された。
しかし、Kさんは強い自責の念に苛まれた。
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