日々の恐怖 8月29日 輸入雑貨の卸業(4)
やがて、両開きのクローゼットがバーンと開いて、中にはSさんの上着しかかかっていないのが見えました。
扉はバタンバタン、バタンバタン、何度も何度も強く開閉して、Sさんのほうに風が漂ってきたそうです。
生臭い血のニオイがしました。
” あ、もしかしてさっきの事故のやつか。
血は出てなかったけどな・・・。”
と思いましたが、Sさんには恨まれる心あたりはまったくなかったので、心の中で、
” 俺は何の関係もねえだろ、車のやつと介抱した野次馬を恨めよ。
俺、関係ナシ。”
こう何度も唱えました。
体はやっと指が動き始め、右手の肘も曲げることができたそうです。
Sさんは、
” これはもしや、昔の組時代の俺を恨んでるやつかもしれない。”
そうも考えたので、
” ありゃしかたねえことだった、お互い様で恨むのは筋違い。”
そのうち、体が動く感じがしたので、
「 俺を舐めるな、クソ野郎!!」
と絶叫してベッドの上に跳ね起きました。
そのとたん、クローゼットの扉がバターンと閉まりました。
Sさんはベッドの下から金属バットを引っ張りだすと、持ったままクローゼットを開けて中を確かめ、そのときは何もおかしな物は見つからなかったので、クローゼットの前で、
「 舐めるんじゃねえ、コノヤロウ!」
と叫びながら、何度も何度もバットを振り回したそうです。
そのうちに他の部屋から苦情がいったのか従業員が来まして、Sさんは着替えてホテルのロビーに行き、そこで朝まで過ごしたということでした。
で、8時ころにチェックアウトしたんですが、そのときクローゼットをしっかり調べると、一番下の引き出しに、ホコリにくるまった小さな頭蓋骨、たぶんネズミの仔のものがあったそうです。
結局、クローゼットが夜中に開閉した原因はわからずじまいでした。
こういう話を聞かされまして、Sさんは、
「 ずっとヤバイ橋を渡って、海外も何度も行って、不可思議なことはこれだけ。
やっぱホテルの客か従業員が、何かたくらんでた可能性が一番高いよな。」
と言ってました。
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