東芝子会社が受注した特許庁の次期システムがとん挫し、その結果、支払い済みの50億円の回収作業の発生と当初より10年以上新システム稼働の遅れが見込まれるという。技術評価で最低だが、入札価格の低かった東芝子会社に発注したところ3度に亘る延長の挙句、最終的に東芝子会社による開発を断念し、再度開発のための入札を行うというもので、既に6年間が無駄になってしまった。
当然ながら、東芝子会社には債務不履行による損害賠償責任が生じるが、問題は、特許庁の国民に対する責任である。国民が特許庁に負託していたものは、国際的にも通用するシステムの開発であり、特許庁がどこに発注したかは国民には関係なく、特許庁の責務が果たされなかった以上、特許庁には国民に対して責任をとる必要がある。これだけの時間と血税を浪費したことは、特許庁の現場の担当者ではなく特許庁トップの責任問題に発展するのは必至であろう。
ところで、システム開発において重要なのは開発を委託する先、ベンダー(今回の場合東芝子会社)ではなく、委託者(特許庁側)の体制である。ベンダーはあくまで委託者の指示および監督のもとに受注したシステムの開発を行うのであり、開発要件(ユーザー要件)や工程管理は委託者により行われなければならない。なぜなら、委託者がまさにユーザー(使用者)であり、業務内容を知り尽くしているからである。ベンダーは委託者からユーザー要件を聴取してシステム開発に入るのであり、ベンダーが正しくユーザー要件を把握しているかの判断は委託者にしかできないことである。いわんや「業者側の能力不足が遅延の要因」(特許庁幹部)との報道には開いた口が塞がらない。本件はまさに官僚による人災である。
技術評価が最低であっても、開発できると判断したのは特許庁であり、今回の失態をベンダー側に帰する言い訳にはならない。採用するか否かは二者択一であり、採用した時点で特許庁にその判断責任が発生している。狡猾な官僚の背信に対し、国民による行政機関の監視の結果として、本件での特許庁における責任のとりかたに注目したい。