閑寂肆独白

ひまでさびしい本屋のひとりごと

読んではいけない!の第◎弾

2022-01-16 08:05:24 | 日記

 「日本の戦争」皿木嘉久 産経新聞出版。
 ある宅買いでかなりの量の整理の中で綺麗なので通販に使えるかと思って持ち帰った中の一冊。
 「日本が戦った本当の理由を伝えるのは大人の責任、そのための必読の一冊」
「子供たちに伝えたい」と帯などに惹句が並んでいる。 いずれ産経のものだから軽いものだろうと思って拾い読みしてびっくり!全編これ軍部の称賛・美化以外に何もない。50項目に分れた目次の表記も「おいおい一体これはなんだ?」と言いたい。この筆者は昭和22年生まれとあって小生と同い年、鹿児島の出で、京大卒という学歴。一体何を学んできたのだろうか?
 日清戦争から敗戦に至るまで全部軍部の擁護、すべて英米中ソほかが日本が戦争をせざるを得ないように仕組んだことで、やむなくやったことだと。
 そして軍部の政治を無視した先走りの越権行動も言葉を尽くして正当化している。 すべて権力者側からの「上から目線」で徹底しておりそこには庶民の視点が全くない。日本人と、朝鮮・満州・台湾の旧領の、そしてひろく東南アジアの人々に与えた苦難・屈辱・暴力には殆ど触れずいっそ善政を敷いたと自画自賛。
 すべて外国からの圧力・仕掛けによってのことだという論は、彼らが嫌う韓国 が 「空手は韓国発祥だ」がよく知られているが歴史的伝統に至ってまで「韓国・朝鮮が始まり、元祖だ」「製鉄・造船・自動車産業」も「自力で発展」と言い募るのと全く同じで、この著者に韓国を非難する資格はない。
 日清・日露の闘いも日本軍は首都どころか彼らの本領土まで攻め入ってもいないのだ。「戦闘」に勝っただけで「戦争」に勝ったわけではない。清国もロシアも「地方のいざこざ」という認識でしかなかったのを知らないのか。
 清国もロシアもこの「敗戦」が原因で政府が倒れたわけではない。日本は戦争に勝ったわけではないのだ。当時はともかく今になっても「勝った・勝った」と言い募る神経は殆ど気違い沙汰ではないか。
「戦争は政治の最後の手段、政治の失敗の尻ぬぐい」ということを全く弁えていない。 「日本は強国になったけれど大国ではない」と中国から言われたことを知らないか! 戦後、蒋介石の「以徳報怨」を知らないか!知っていて言わないのなら尚更、日本を再度戦争に向かわせる、いっそ「国賊」といってもよい。
 「石油を求めて」開戦したというけれどその前に機械工業製品、ほかの原材料の締め付けはすでにあっていて、零戦のエンジンを作る鍛造機もいざ増産というときにすでに輸出禁止のため追加入手ができず、日本のトラックが役に立たないのはシャフトの鍛造がやわだったこともよく知られている。その零戦の機関銃はスイス、プロペラはUSAのコピー。液冷エンジンを作り切れずドイツ人から「何でできないの?」と不思議がられても反論できなかった(戦闘機にとっては空冷エンジンより液冷の方が有利なのは英米独の例でよくわかる)。海軍の主力艦の主な鋼材は英国製で敗戦近くまで温存「大事に」使われていた。これらは現場の技術者はみな知っていたことなのに、「無視」したのは誰だ!精神論でしか対応できなかったのは誰だ。
 軍紀の乱れもひどかった、佐官クラスの連中の栄耀栄華、庶民は食うものに困っているのに毎度三菜の飯・チョコレート・ウィスキーも欠かさないというおごり高ぶりをなんと見るか! そして敗戦時に一番に逃げた連中を!
 敗戦時の記事の最後に阿南・大西・杉山・宇垣・本庄・近衛等の自決を潔しと書いているが、では 天皇の責任は? 将以下の佐官連中はどうだったのか? 翼賛会の連中は?政府の高官は? 戦争指導者の自決はいわば当然!武士道の云々を言い募ってきた連中なのだから。
 軍部のこともさりながら、戦わされた人々、巻き込まれた人々、そして満州・沖縄・グアム・サイパン・ガダルカナル・インパールなど軍の「戦略」に見捨てられた多くの人々、空襲で亡くなった人々のことは何と考えるのか。
 後藤新平が「台湾の古い習慣・制度を生かした」善政を敷いたとほめているがその一方で神社を建て鳥居に礼拝するように占領地全域に強制したのは何なのか?改氏姓名は一体何なのか? これらについて全く触れていない。この本を「子供たちに伝えたい」とは全くもって許されないことだ。
 この著者は「失敗の本質」「情報戦に完敗した日本」を読んでいない!この傲慢な態度は一体何だろう。
コメント
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