「若い会社にこそ実績を積んで大きくなってもらい、どんどん海外で勝負してほしい」ー。東京都の宮坂学副知事は、東京からもっと多くのスタートアップを生み出そうとしている。前職のヤフー時代にグローバルで成長企業に投資するソフトバンクグループの孫正義社長の薫陶を受けており、都から世界を目指す起業家を支援する取り組みに本腰を入れている。
宮坂氏は18日のブルームバーグとのインタビューで、日本で起業家が生まれやすい環境をつくるために都を含む行政が「もっと意志を持って若い会社にチャンスをどんどんあげる」ことが必要だと指摘。「行政は調達の分野でもっとやれることがある」と述べ、公共調達でスタートアップの製品を積極的に導入していく考えを示した。
2019年に副知事に就任した宮坂氏は元ヤフー社長で、都庁のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を主導している。都の事業で使用するアプリなどデジタル分野では、スタートアップでも可能な仕事は多いと言い、都が新しい技術を率先して取り入れる「アーリーアダプター」の役割を担い、企業の成長に結び付ける狙いだ。
都ではスタートアップの製品をいくつかの施設に導入しており、今年度はVR(バーチャルリアリティー)学習コンテンツなど3社の製品を選定した。宮坂氏は「都は、病院や学校、美術館、スポーツ施設といった現場をたくさん持っている」と述べ、スタートアップの製品を導入できる余地は大きいとみている。
内閣官房の資料によると、ユニコーン企業(企業価値10億ドル超、約1270億円超の未公開企業)は米国が274社で、時価総額の合計は8900億ドル(約114兆円)を超える。続く中国が123社、日本はわずか4社で時価総額の合計も52億ドル(約6635億円)にとどまっている。
日本の現状について宮坂氏は、企業の廃業率も低く「新陳代謝が止まってしまった」と分析。東京が起業家が集い、新たなビジネスが生まれる場所になるには、ニューヨークやロンドン、シンガポールなど多くの選択肢の中で「なぜ東京を選ぶのか」を提示する必要があるという。変化を促す第一歩として、「都が持っている設備や現場にスタートアップの人たちがいることを普通にしたい」と語った。
スタートアップを巡っては、岸田文雄政権が成長戦略の柱と位置付け、支援強化を打ち出している。4月の「新しい資本主義実現会議」で岸田首相は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの長期運用資金や個人金融資産がスタートアップなどに循環する流れを作ると表明した。
こうした政府の動きに関して宮坂氏は「税制などもいろいろ考えてはくれていると思うが、起業家教育が大事だ」としたうえで、中学や高校時代に起業家の話を聞く機会があれば「私にもできると選択肢が増える」と語った。
宮坂氏は、設立2年目のヤフーに入社し12年に社長に抜擢された。同社では当時遅れていたスマートフォン事業の強化などに尽力。13年からはソフトバンク(現ソフトバンクグループ)の取締役も務めた。孫社長については「新しいモノを創りたいというパッションのスタミナがすさまじい」と述べ、同氏から学んだことは多いと言う。副知事就任後は「コンタクトしていない」というが、「一番影響を受けた人の中の一人」だとした。
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