最近、コロナ後に仕事が戻らないなどの理由で、家賃の支払いが厳しくなっている方もいらっしゃるようです。家賃を滞納するとどうなるのか、立ち退きの現場に立ち会ってきた森本治子さんにお話を伺いました。
佐賀県出身。これまでホテルスタッフや弁護士事務所の事務など、さまざまな仕事を経験してきた森本さんは、2018年から2022年まで、家賃保証会社で督促の業務を担当しました。家賃滞納が発生したと電話で報告を受けると、その家に出向き、住人の安否確認や生活保護申請の手伝いをすることもあるそうです。
――督促するのは、大変なお仕事だと思います。これまでも、立ち退きに至るまでのさまざまなケースを見てこられたのでしょうか?
「はい。高齢者の一人暮らしや風俗に勤務する女性が年齢を重ねて収入が下がってしまったケース、上場企業に勤務しているのに滞納された方などがいらっしゃいました。
すでに賃借人が亡くなっているケースもあり、その場合、不思議と電話をかけた途端に嫌な予感がして、実際に訪問すると孤独死をしているなど、いろいろな経験をしました。
これまでさまざまなケースを担当し、浪費などで家賃が払えなくなる家には、共通点があることを発見しました。
・玄関に居住している人数以上の靴が散乱している
・玄関先が整理整頓されていない
・ペットを飼っている
以上の3点です」
――物を減らして、玄関を片づけないといけませんね。これまで森本さんが立ち会ったなかで、印象に残っている現場を教えていただけますか?
●元公務員40代の独身男性の場合
「ご本人と連絡がつかない状況で家賃滞納が続き、警察立ち会いのもと安否確認を実施しました。ところが、警察が玄関を開けたらご本人が出てきて、『オレは無敵の人間だ。払うお金はないから、どうにでもしろ!』と叫ばれたのです。滞納理由は派遣切りにあって、次の仕事が決まらないというものでした」
●土建業で働く日雇い男性の場合
「『まったく部屋に帰ってないのでは』と連絡があったので、出入りを確認するため、ドアの蝶つがいにテープを張りました。1週間後に再び行ってみると、テープが外れていなかったので、警察官立ち会いのもと玄関を開けると、腰の高さまでゴミで埋まっていて、奥に入れない状況でした。
警察官がゴミをどけながら進むと、業界用語で “爆弾” と呼ばれる、ペットボトルや紙パックに排泄物をため込んたものが、壁ぞいに並んでいました。これは燃えるゴミでは処分できないので、後に請求する残置物撤去費用や原状回復費用が高くなります。ご注意ください。このケースも、派遣切りにあい、収入が途絶えたため家賃の滞納につながったそうです」
●ゴミ屋敷に住む24歳女性の場合
「家賃を6カ月滞納している若い女性と連絡が取れないため、田舎から出てきていただいたお父さま立ち会いのもと、管理会社と一緒に部屋に入りました。
部屋のなかは、ゴミと段ボール箱とフィギュアの山でした。入口にカビだらけの真っ黒なせんべい布団がありましたが、本人がどこにも見つかりません。
トイレには使用済みの生理用品が積み重なった状態で、お父さまも絶句されていました。お父さまが居場所に心当たりがあると言うので、バイト先と思われるカフェに行ってみました。そこで働いている彼女を発見して話をしたところ、『実家に帰りたい』と泣き出してしまいました。
このときは、滞納ぶんをお父さまが支払って、実家に帰るという話でまとまったのですが、彼女はその後も半年間この生活を続けていたため、再度、管理会社とともに訪問し、面談しました。
お父さまが電話越しに『すぐ実家に戻るように』と説得しても、彼女はうなずくだけで動きません、そこでお父さまと話をして彼女に『もうここには住めない』と伝え、『貴重品や要るものをまとめて出て行くように』と伝えました。
しかし、彼女は田舎に帰る切符も買えなかったのです。手元に5000円くらいしかないと言うので、品川駅まで一緒に行って切符の手配をして、新幹線に乗せました」
●年金暮らしの88歳のおじいさん
「部屋のオーナーから『本人と連絡がつかない。年齢も年齢なので、倒れていないか心配だ』という連絡をうけて、現地に向かいました。
インターホンを押すと、なかからやせ細ったおじいさんが出てきました。救急車を呼ぶことを嫌がったので、市の福祉課から保健師さんを派遣してもらいました。
玄関はゴミがあふれ、部屋の様子が確認できないので、外から駐車場側の部屋の雨戸を開けると、その部屋も天井までゴミ袋が積み上がっていました。アリの巣の観察キットのような、ゴキブリの巣もできていました。
年金はちゃんと出ているのに、なぜ滞納したのか話を聞くと、働いて生活したいとポスティングのアルバイトをしたものの、移動でバスに乗るため、交通費がかさんで赤字になっていたのです。
収支がマイナスなので、その仕事をやめて年金だけで生活しませんか、と言っても、おじいさんにとっての生き甲斐だったらしく、首を縦に振りません。
結局、この方は体調を崩して1人で生活することが困難になり、施設に入ることになりました」
●54歳の元風俗嬢
「最初のうちは、訪問しても門前払いを受けました。『追い出しに来たんでしょう?』と言われたので、『いいえ、話を伺いに来ました』と答えるうち、次第に状況を話してくれるようになりました。
風俗嬢という職業柄、年齢を重ねて仕事が減ってしまい、メンタルを病んでしまっていました。生活保護を申請してくださいとアドバイスしたのですが、1人で役所に行ったら、話も聞いてもらえず、相談すらできなかったそうです。
日を改めて、彼女に付き添って役所に行き、『以前、弁護士事務所にいました』と言ったら、申請が通りました。
そのときに思ったのは、生活保護は、本当に必要な人のところに届いていないのではないかということです。
日本人は、生活保護を受けるのは恥ずかしいと考える方も多く、また、親族に迷惑をかけられないと、なかなか申請に行けない方もいます。うまく自身の状況を説明できず、受け付けてもらえないケースもあるようです。
逆に、外国人のなかには、ブランドバックを持ちながら受給する人もいますし、役所で騒いで生活保護をもらおうとする人もいるようです。そういうときは警察に通報するなど、役所は毅然と対処するべきだと思います」
――怖い話もあるそうですね。
「はい。あるとき、賃借人が死亡していると連絡を受けて、現場に行きました。通行人が、窓から人の手が出ているのを不審に思い、第一発見者になったケースです。賃借人はタバコを吸いながら亡くなっていたようです。
管理会社の方と一緒に物件の確認をしていると、玄関横の風呂場でおじいさんが湯船につかっているような姿が見えたので、『この部屋、前にも誰か亡くなっていませんか?』と聞いたところ、『これで3人めです』という答えが返ってきました。
また、連絡が取れない賃借人のケースで、警察官立ち会いのもと、玄関を開けたとき、なかから『オウ!』という声が聞こえました。ところが、『◯◯さん、いらっしゃるなら出てきてください。連絡が取れないので、警察と一緒に安否確認に来ました』と言っても、反応はありません。そこで、チェーンを壊して入ると、ミイラ化したご遺体が発見されました。現場にいた全員が声を聞いていて、不思議だと感じました」
いろいろな現場に立ち会う大変なお仕事ですね。本当に必要な方が生活保護を受けられる状況になればと思います。
■家賃が払えなくなったとき、気をつけるべき3カ条
(1)保証会社からの連絡を無視しない
(2)親族か保証会社に相談する
(3)バレる嘘はつかない
追い出されると思ってケンカを売ったら損します。相談して味方になってもらいましょう。家賃の支払いを後回しにしたら、生活する場がなくなる可能性があります。
保証会社は追い出すために存在するのではなく、弱者救済をする立ち位置にあります。家賃の支払いに窮することがあったら、早めに保証会社に相談してください。
取材協力/カラオケ館上野本店
日下千帆
1968年、東京都生まれ。1991年、テレビ朝日に入社。アナウンサーとして『ANNニュース』『OH!エルくらぶ』『邦子がタッチ』など報道からバラエティまで全ジャンルの番組を担当。1997年退社し、フリーアナウンサーのほか、企業・大学の研修講師として活躍。東京タクシーセンターで外国人旅客英語接遇研修を担当するほか、supercareer.jpで個人向け講座も
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