「学習力トレーニング」岩波ジュニア新書より
8章 発表力を高める
8.2 発表を準備する
整理して絞り込む---準備その1
文章を書くときの紙幅制限に相当するのが、発表時間の制限です。 それも、教室での発表となると、10分程度とかなり短いのが普通です。
となると、その時間内で発表をまとめるためには、それなりの準備が必要となります。
その準備の最初が、発表で言いたいことは何かを決めることです。 これは、前節での構想の精選と具体化でおこなったことを思い出してください。
文章表現の場合と違うのは、制限の厳しさです。何度でも読み返してもらえる文章表現とは違って、発表は短時間の1回勝負ですから、言いたいことをかなり絞らないと、聞き手の頭に残りません。 どれくらいに絞るかですが、3つ、多くても5つまでです。
発表の冒頭で、これを「発表のねらいは、第一に----、第2に----、第に----」とはっきりと宣言してしまいます。
発表の資料を作る----準備その2
発表の資料は、呈示用と配付用とがあります。両者が一緒ということもあります。 資料の配布と呈示は、口頭説明のおぼつかなさを補うものです。 口頭による説明のおぼつかなさは、伝言ゲームという遊びをしてみるとよくわかります。
五人くらいが横一列に並びます。左はしの人に文章を暗記してもらってから、口頭で隣の人にその内容を伝えます。最後の人に再生してもらうと、内容の中核のところさえ、変わってしまったり、落とされてしまうことがあります。 呈示用の資料は、文章表現と「ビジュアル表現(目で見てわかる表現)」とを使うことになります。
内容は、大きく3つに分かれます。
「大枠とポイントの箇条書き」 話の大枠とポイントを箇条書きで見せて、それに沿って発表していきます。
「図解」 話の一定のまとまりごとに、あるいは、大事な内容が一目で見えるように、図解をします。これを見ながら発表するか、話して終ってから、まとめとして見せるかします。
「例示」 発表に関係する写真や図表など具体例を見せます。
大がかりになると、これら3つのタイプをすべて呈示資料として使いますが、10分程度の発表では、「例示」を使うくらいでよいと思います。 ただ、本の目次があると全体がイメージできるように、発表でも、「大枠とポイントの箇条書き」を最初に示して、発表の全体像をイメージしてもらうのは、効果的です。
口頭説明のおぼつかなさのもう一つは、1次元的な時間の流れの中でしか説明できないところにあります。全体と部分、部分と部分の関係がどうしても見えなくなります。それを補う工夫の一つが、「大枠とポイントの箇条書き」のビジュアル表現です。
発表のリハーサルをする---準備その3
文章を書いているときは、意識的にも、無意識的にも実に頻繁に推敲をしています。書いては消し書いては消しを大小取り混ぜると、どれくらいしているか見当もつきません。 しかも、書き手としての推敲だけでなく、読み手の立場からの推敲もすることがあります。したがって、書き終わると、完成度が9割以上ということなります。
しかし、発表の場合には、資料作りが終わっても、事はまだ半分くらいまでしかいっていません。発表そのものは実際にやってみないと、それでよいかどうかがわからないからです。
では発表のリハーサルではどんなことをすればよいのでしょうか。
一つは、時間管理です。
きめられた時間内に終えるには、どうしても一度や2度は、本番を想定してストップウオッチを使って練習してみるしかありません。 一番確実なのは、発表原稿を作ることです。 NHKのアナウンサーは、1分間350文字の速度で話すようにしているそうです。この当たりが一つの目安になります。
ただし、気をつけてほしいのは、原稿をひたすら読むような発表は厳禁ということです。それなら、文書にして配るほうが、はるかに効果的に伝えることができます。
したがって、発表原稿は、読みあげるための原稿ではなく、何をどのような時間進行に従って話すかを書いたシナリオ風のものにするべきです。
さらに発表のリハーサルには、話し方や身のこなし方などの練習もありますが、これは、場数を踏みながら経験を重ねて身につけていくことになります。どんな点がポイントかは、次節で紹介します。 ただ、発表は、リハーサルすればするほど、うまくなります。 その気になってやってみてください。今は、家に録音も録画もできる機器があります。それを使えば、ちょっと気恥ずかしいですが、自分でチェックすることもできます。 一番いいのは、仲間の前で実践を想定してリハーサルして、評価してもらうことであるのは、言うまでもありません。