5 雑用の効用を知る
我々学者仲間でのぼやき言葉の一つに、「雑用が多くて困る」がある。
確かに、雑用がなかったら集中できてすごい仕事ができるだろう、毎日が楽しいだろう、と思いたくなる。こんな仕事をいくらやってもなんの足しにもならない、と思いたくなるのが雑用である。しかし、よくよく考えてみると雑用にもいくつかの効用がある。
その一 あなたの生活を見回すきっかけになる
雑用をしてみると、自分が今どのような位置にいて、誰と一番関係しているか、今何が問題となっているかなどが実感としてわかってくる。さらに、人とのつながりが新たに生れるきっかけになるのも雑用である。
その二 雑用はつきせぬ情報源である
人が何に関心を持っているか、どの人とどの人とが深い関係にあるか、組織が全体としてどのように動いているか、仕事の全体の流れ、でき具合がどうなっているかなどが、雑用からおのずと見えてくる。嫌々やればただ退屈なだけで、時間の経つのが遅く感じられてしまうが、積極的にこなしていく姿勢があれば、雑用からもたくさんのことが学べる。
その三 頭を活性化してくれる
雑用は、その多くがやればすぐに終わる類のものである。したがって、一つ一つ、片がついていくという感じを持つことができる。大きな仕事、集中力を必要とする仕事にとりかかる前座として、頭をウォームアップさせるために雑用を利用してみてはいかがであろうか。
その四 気分転換としても雑用は有効である。
別のことに頭を使うことで気分が変わる効用も雑用にはあるからである。
かくして、雑用はいいことずくめである。多いに楽しんでやるのが良い。音や人間関係と同じで、嫌と思えば嫌だし良いと思えば良い。嫌ならこれは集中力を乱す雑音になるし、良ければ集中力をコントロールする素材に使える。
しかし、雑用管理にはある程度の工夫が必要である。楽しんでばかりいて、毎日を雑用で終えてしまうわけにはいかない。あくまで、雑用は雑用であるとの認識を忘れてはならない。
そのためには、雑用に費やす集中力あたりの能率をあげることである。つまり少ない集中力で最大の効率をあげることを念頭に置いて、雑用管理を工夫することである。
さらには、雑用が頭の中に残らないような工夫をすることも大事である。その時々で、片をつけていく方法を考えることである。
そここで一つのおすすめは、メモやメールの積極的な活用である。
具体的には、メモやメールを、記憶の外部の補助装置として使うのである。
やりかけの仕事は、記憶に残る(中断効果)。大事なことならその方がむしろ好ましい。しかし、雑用は早く片付けて頭をすっきりさせたい。そこで、メモやメールの形で、とりあえず、頭の外にだしてしまう。
メモやメールのいずれにも、もう一つここでは役割を持たせる。それは、相手をも記憶の補助装置として使ってしまうのである。
たとえば、会合時間の打合わせも、今日、明日という急な話でなければ、メモやメールにして相手に届けておく。何かを伝えたいのならメールにして送ってしまう。そして、相手からの連絡を待てばいい。場合によっては、自分では忘れてしまってもかまわない。相手にゲタをあずけてあるからである。
メモやメールの効用は、この他にもある。面と向かっては断りにくいことや言いにくいこともあっさりと書けるし、ストレスを感じないで済む。会合への招待なども、メールで都合を聞かれれば、それほど悩まずに「欠席」と返事ができる。これが、電話で誘われると断りにくい。