複数の心理学 かくも違った心理学が共存しうるのはなぜ
●日本には心理関係の学会が37もある
脚注に挙げた学会は、日本心理学諸学会連合に加盟している学会名である。(注1)
筆者の場合は、日本心理学会と日本教育心理学会など7つの学会に加入しているが、多分、これは少ないほうであろう。この中の学会のもう一つくらいと、さらに、隣接領域の学会一つくらいに加入しているのが日本の心理学研究者の標準ではないかと思う。
余計なことだが、年末の学会費の支払いが10万円くらいになる。
なぜ、これほど学会が増えてしまったのであろうか。
●研究者の数だけテーマがある
ここに2000年に行なわれた第64回日本心理学会の大会発表論文がある。発表論文数1200件、参加者2500名に及ぶ。
発表の区分けは、伝統的に次の18部門になっている。
「原理・方法」 「社会・文化」 「臨床・障害」 「人格」「発達」 「教育」 「数理・統計」 「感覚・知覚」 「犯罪・非行」 「認知」「学習」 「記憶」 「言語・思考」 「スポーツ・健康」 「行動」「生理」 「産業・交通」 「情動・動機づけ」
この部門のそれぞれが、さらに、自前の?学会をもっているといってもよい。なぜ、自前の学会が必要なのであろうか。
●研究には仲間が必要
研究には一見すると矛盾した面が共存している。一方では、研究者個人の知的好奇心のおもむくままにという内面的側面、もう一方では、自分の知的好奇心を共有してくれる仲間をもとめるという社会的側面とである。
前者は研究の自由が保証されるポストを求めさせ、後者は学会や研究会の結成を求めることにつながる。
個人の内面志向と社会志向との共存は、実は矛盾したものではない。学問に限らず創造活動には強烈な内面志向が必要であるが、それだけではだめで、それを支える文化、組織、評価システムといった社会的な仕組も必要なのである。個人の趣味のようなものでも、趣味仲間がある、あるいは必要なのと似ている。
学会はその社会的な仕組の一つなのである。その学会もできるだけ、コンパクトなほうが何かと都合がよい。本当なら、50人程度の研究会が一番なのだが、これだと社会的な認知という点でインパクトが弱い。かといって、大きくなると、官僚化してしてしまって窮屈である。となると、500人程度の学会を作ろうということになる。
心理学のように、心という得体の知れない対象を研究する領域では、研究者間で知的好奇心は拡散する。1200件もの発表があっても、同一テーマで異なる研究者が発表するということはまずない。かくして、学会の群雄割拠がはじまる。
●もっと俗っぽい背景もある
もっとも、学会の群雄割拠状態を作り出す世間的な?事情もある。学会の仕事のうち最も重要なのは、論文機関誌の発行である。これが、自前で出せるメリットは大きい。
大きな学会の機関誌に論文を掲載するには、投稿してから査読をへて掲載までどんなに速くとも1年はかかる。(注1)これを短縮できる。さらに、大きな学会の機関誌は、一定の水準を保つために審査基準が高めに設定してある。そのため、独創的だが論証が雑、あるいは、テーマそのものが奇抜過ぎる、といった理由で審査を通らないことがある。自前なら、そのあたりはかなり融通がきく。
もう一つの世間的な事情は研究費配分である。
今、科学技術への国費の投入は莫大な額になっている。(注3)心理学にもそのおこぼれはある。その配分をどうするかは、かなりの程度までは、心理学の中で決めることになる。となると、学会が配分の権限を握ることになる、
****
注1 バイオフィードバック学会、ブリーフサイコセラピー学会、動物心理学会、学校教育相談学会、学生相談学会、グループダイナミックス学会、箱庭療法学会、犯罪心理学会、発達心理学会、自立訓練学会、感情心理学会、カウンセリング学会、家族心理学会、健康心理学会、基礎心理学会、行動分析学会、行動科学学会、行動計量学会、行動療法学会、交通心理学会、教育心理学会、人間性心理学会、応用心理学会、リハビリテイション心理学会、臨床動作学会、臨床心理学会、理論心理学会、催眠医学心理学会、産業カウンセリング学会、性格心理学会、生理心理学会、社会心理学会、心理臨床学会、進路指導学会、特殊教育学会、産業・組織心理学会、社団法人日本心理学会
注2 一時を競う最先端分野では、ニューズレターや雑誌(サイエンスなど)への掲載を先行させることがある。残念ながら、心理学では、これまでそんな話は聞いたことがない。
注3 学術振興会で配分する科学研究費は総額で、 ***億円。その内、心理学関係は、およそ****億円である。
●日本には心理関係の学会が37もある
脚注に挙げた学会は、日本心理学諸学会連合に加盟している学会名である。(注1)
筆者の場合は、日本心理学会と日本教育心理学会など7つの学会に加入しているが、多分、これは少ないほうであろう。この中の学会のもう一つくらいと、さらに、隣接領域の学会一つくらいに加入しているのが日本の心理学研究者の標準ではないかと思う。
余計なことだが、年末の学会費の支払いが10万円くらいになる。
なぜ、これほど学会が増えてしまったのであろうか。
●研究者の数だけテーマがある
ここに2000年に行なわれた第64回日本心理学会の大会発表論文がある。発表論文数1200件、参加者2500名に及ぶ。
発表の区分けは、伝統的に次の18部門になっている。
「原理・方法」 「社会・文化」 「臨床・障害」 「人格」「発達」 「教育」 「数理・統計」 「感覚・知覚」 「犯罪・非行」 「認知」「学習」 「記憶」 「言語・思考」 「スポーツ・健康」 「行動」「生理」 「産業・交通」 「情動・動機づけ」
この部門のそれぞれが、さらに、自前の?学会をもっているといってもよい。なぜ、自前の学会が必要なのであろうか。
●研究には仲間が必要
研究には一見すると矛盾した面が共存している。一方では、研究者個人の知的好奇心のおもむくままにという内面的側面、もう一方では、自分の知的好奇心を共有してくれる仲間をもとめるという社会的側面とである。
前者は研究の自由が保証されるポストを求めさせ、後者は学会や研究会の結成を求めることにつながる。
個人の内面志向と社会志向との共存は、実は矛盾したものではない。学問に限らず創造活動には強烈な内面志向が必要であるが、それだけではだめで、それを支える文化、組織、評価システムといった社会的な仕組も必要なのである。個人の趣味のようなものでも、趣味仲間がある、あるいは必要なのと似ている。
学会はその社会的な仕組の一つなのである。その学会もできるだけ、コンパクトなほうが何かと都合がよい。本当なら、50人程度の研究会が一番なのだが、これだと社会的な認知という点でインパクトが弱い。かといって、大きくなると、官僚化してしてしまって窮屈である。となると、500人程度の学会を作ろうということになる。
心理学のように、心という得体の知れない対象を研究する領域では、研究者間で知的好奇心は拡散する。1200件もの発表があっても、同一テーマで異なる研究者が発表するということはまずない。かくして、学会の群雄割拠がはじまる。
●もっと俗っぽい背景もある
もっとも、学会の群雄割拠状態を作り出す世間的な?事情もある。学会の仕事のうち最も重要なのは、論文機関誌の発行である。これが、自前で出せるメリットは大きい。
大きな学会の機関誌に論文を掲載するには、投稿してから査読をへて掲載までどんなに速くとも1年はかかる。(注1)これを短縮できる。さらに、大きな学会の機関誌は、一定の水準を保つために審査基準が高めに設定してある。そのため、独創的だが論証が雑、あるいは、テーマそのものが奇抜過ぎる、といった理由で審査を通らないことがある。自前なら、そのあたりはかなり融通がきく。
もう一つの世間的な事情は研究費配分である。
今、科学技術への国費の投入は莫大な額になっている。(注3)心理学にもそのおこぼれはある。その配分をどうするかは、かなりの程度までは、心理学の中で決めることになる。となると、学会が配分の権限を握ることになる、
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注1 バイオフィードバック学会、ブリーフサイコセラピー学会、動物心理学会、学校教育相談学会、学生相談学会、グループダイナミックス学会、箱庭療法学会、犯罪心理学会、発達心理学会、自立訓練学会、感情心理学会、カウンセリング学会、家族心理学会、健康心理学会、基礎心理学会、行動分析学会、行動科学学会、行動計量学会、行動療法学会、交通心理学会、教育心理学会、人間性心理学会、応用心理学会、リハビリテイション心理学会、臨床動作学会、臨床心理学会、理論心理学会、催眠医学心理学会、産業カウンセリング学会、性格心理学会、生理心理学会、社会心理学会、心理臨床学会、進路指導学会、特殊教育学会、産業・組織心理学会、社団法人日本心理学会
注2 一時を競う最先端分野では、ニューズレターや雑誌(サイエンスなど)への掲載を先行させることがある。残念ながら、心理学では、これまでそんな話は聞いたことがない。
注3 学術振興会で配分する科学研究費は総額で、 ***億円。その内、心理学関係は、およそ****億円である。