心理実験の特徴
基本的な要件は共有していても、心理実験には、自然科学における実験とは異なった特徴と限界がある。それを前述した3つの鍵概念ごとにみていくことにする。
なお、本節では以下、人を被験者とした実験のみを想定する。
●「仮説」
仮説のもとになる心理学の知識については、他の科学の知識とその特性も機能も変わらない。違いは仮説を発想するときである。心理学の研究対象が、研究者と同じ人であるだけに、研究者と研究対象との分離ができにくいということがある。
これは、仮説構築にとって有利にも不利にも働く。仮説の真実性、妥当性についての「主観的な」見通しがつく点では有利であるが、一方、主観が知識の活用も観察の目も「恣意的に」左右してしまう危うさがある。
●「因果関係」
前述した因果関係の3つの要件ごとにみていく。
まず、一つ目の要件である、原因のもつ影響力である。
心理実験の中に持ち込める影響力の範囲には、人を被験体とすることによる厳しい限界があるため、心理現象の多くの因果関係が「実験的には」検証できないままになっている。
最も厳しい限界は、時間的な限界である。実験室実験になれば、1時間程度、何回かの実験をするにしても、せいぜいが1月くらいまででの影響力しか検出できない。たとえば、幼児期のトラウマが青年期の神経症の発症をもたらすとする(精神分析的な)仮説を「実験的に」検証することは不可能である。
倫理的な限界もある。ネガティブな影響力が想定されることを、人を被験者にして実験するわけにはいかない。
次は、2つ目の要件である、時間的順序性である。
心は予測することができる。あるいは、行為の意図を形成することができる。予測、意図が原因になって行為が結果するというやっかいな問題が時折、発生する。これは、実験者が想定した原因と結果との時間的な順序性を乱す(逆転させる)ことになるし、想定した因果関係とは別の因果によって心理現象が起こっていることになる。実験者が期待するように被験者が反応してしまう、実験意図の察知問題も、この例として考えることができる。
最後は、3つ目の十分条件である。
心理実験では、多数かつ多彩な過去の原因の結果として存在している人を被験体とする。したがって、結果として出現する現象にかかわる原因がただ一つだけということは希である。その原因を取り去れば結果も起こらない、ということにはならないことが普通である。つまり、必要十分条件の形で因果関係を確認することが極めて難しい。
また、実験で原因として操作できる変数(独立変数)の数には限界がある。多数の変数群が全体として(ゲシュタルト的に)ある現象(従属変数)を規定している様子を実験で明らかにするには限界がある。
基本的な要件は共有していても、心理実験には、自然科学における実験とは異なった特徴と限界がある。それを前述した3つの鍵概念ごとにみていくことにする。
なお、本節では以下、人を被験者とした実験のみを想定する。
●「仮説」
仮説のもとになる心理学の知識については、他の科学の知識とその特性も機能も変わらない。違いは仮説を発想するときである。心理学の研究対象が、研究者と同じ人であるだけに、研究者と研究対象との分離ができにくいということがある。
これは、仮説構築にとって有利にも不利にも働く。仮説の真実性、妥当性についての「主観的な」見通しがつく点では有利であるが、一方、主観が知識の活用も観察の目も「恣意的に」左右してしまう危うさがある。
●「因果関係」
前述した因果関係の3つの要件ごとにみていく。
まず、一つ目の要件である、原因のもつ影響力である。
心理実験の中に持ち込める影響力の範囲には、人を被験体とすることによる厳しい限界があるため、心理現象の多くの因果関係が「実験的には」検証できないままになっている。
最も厳しい限界は、時間的な限界である。実験室実験になれば、1時間程度、何回かの実験をするにしても、せいぜいが1月くらいまででの影響力しか検出できない。たとえば、幼児期のトラウマが青年期の神経症の発症をもたらすとする(精神分析的な)仮説を「実験的に」検証することは不可能である。
倫理的な限界もある。ネガティブな影響力が想定されることを、人を被験者にして実験するわけにはいかない。
次は、2つ目の要件である、時間的順序性である。
心は予測することができる。あるいは、行為の意図を形成することができる。予測、意図が原因になって行為が結果するというやっかいな問題が時折、発生する。これは、実験者が想定した原因と結果との時間的な順序性を乱す(逆転させる)ことになるし、想定した因果関係とは別の因果によって心理現象が起こっていることになる。実験者が期待するように被験者が反応してしまう、実験意図の察知問題も、この例として考えることができる。
最後は、3つ目の十分条件である。
心理実験では、多数かつ多彩な過去の原因の結果として存在している人を被験体とする。したがって、結果として出現する現象にかかわる原因がただ一つだけということは希である。その原因を取り去れば結果も起こらない、ということにはならないことが普通である。つまり、必要十分条件の形で因果関係を確認することが極めて難しい。
また、実験で原因として操作できる変数(独立変数)の数には限界がある。多数の変数群が全体として(ゲシュタルト的に)ある現象(従属変数)を規定している様子を実験で明らかにするには限界がある。