日経広告研究所 インタビュー原稿
第1 認知心理学とは何か
一言定義「人の頭の働き(知の世界)を研究する心理学の一分野」
歴史的なことを言うなら
●50年代から70年代にかけて、
知的人工物・コンピュータの進化とともに、活発な研究が行われてきた。
そこからの要請もあって、人の頭の働きをコンピュータの情報処理になぞらえて考えてみようという研究が活発に行われた。
たとえば、
○頭の中にある知識には、「ーーについての知識」と、「何かができることを支えている知識」があるとか、
○知識獲得のモデルとして、短期記憶と長期記憶があり、その間で情報のやりとりをしながら、知識の獲得や更新をしているとか
●80年代
知が頭の中に自閉的にあるのではなく、「人は状況の中の知を巧み利用して生きている」ことを主張する状況論的認知研究が強くなった。
たとえば、
○適切な行為を自然に誘う物理的な仕掛けの利用ーーーアフォーダンス
○人の知識の活用ーーー知識の社会的な分散
○状況の中での学習ーーー正統的周辺参加
●90年代
関心が分散している時代
○心は脳なり、心は遺伝子なりーーー還元主義
○心は進化するーーー進化心理学
○心にはハートもあるーーー日常認知、温かい認知の研究
第2 広告とのかかわり
「人は広告をこのように見ているのだから、広告はこのように制作すれば
効果的なものになるはず」という原則を掘り起こすことが、課題になります。
「日経リサーチ」で、2,3年前に広告クリエター・山田氏と一緒にした仕事の一部を紹介させていただくのがよろしいかと思います。
その仕事では、山田氏がいろいろの観点から試作した広告を,たくさんの方々にみていただき、
○注目したか
○覚えられたか
○好きか
など、いろいろの観点から広告の効果を評価してもらいました。
その結果と、認知心理学の知見とを合わせて、効果的な広告表現の設計のための認知心理学的ガイドラインを提案させていただきました。
たとえば、
○有名人と動植物は注目される
○未完のヘッドラインはビジュアルに誘導するに効果的
○ボディコピーをわかりやすくにするには、タイトルを付ける
などなど。詳しくは、
日経広告手帖98年6月号から11月号まで連載
こういうものを提案させていただくことによって、
○広告制作者に消費者志向の広告作りへのヒントになる
○若い広告クリエーターの訓練プログラムとして使える
第3 今後、認知心理学は広告といかにかかわっていくか
●消費者サイドに立った制作ガイドラインの提供
第2で述べたような形の研究をさらに続けていく必要があります。心理学のほうには、広告制作の力がありませんから、広告制作者と共同研究を続けていく必要があります。
とりわけ、新しい情報メディアにおける広告の制作ガイドラインの提案は焦眉の急ではないかと思っています。
●広告の中に作り込まれている説明と説得のために表現ノウハウの啓発
これまで20年間、マニュアルについて研究してきましたが、マニュアルの中に作り込まれている表現技法が、普通の文書においても効果的に活用できることがわかりました。
それと同じことが、広告についてもできると思います。
誰もが情報発信者の時代、広告表現のノウハウは誰もが共有すべきものとして、その役割を増しているとも言えます。広告本来の機能ではないでしょうが。