Vol.19「別れのワイン」はこちら。
今回の犯人は上院議員候補。補欠選挙の最中に、自分を操ろうとしている選挙参謀を殺害する。警備陣を攪乱するために、参謀に自分の服を着せたうえで射殺するので、ねらわれたのは自分だと主張できるあたりが妙味。
もちろんこの犯罪は、現場にあった車のエンジンがなぜ冷えているのか、頑丈なものを好む参謀がなぜ腕時計だけは華奢なものをしていたのか、なんて些末なことに徹底してこだわる偏執狂的な刑事によってあばかれてしまう。
候補者役のジャッキー・クーパーが最高だ。いるよこういう政治家。弁が立ち、ジョークも達者。女性関係も華やかで、だからこそ妻を懐柔するのもお手のもの。クラーク・ケントをクリストファー・リーヴが演じたバージョンの「スーパーマン」で、クラークを叱咤激励する編集長役がなつかしいクーパーの本領発揮。子役出身の彼は、キャリアを全うして現在は悠々自適の生活を送っているらしい。そのあたりもクーパーっぽくてうれしい。
ピーター・フォークもいい。大物がからんだ事件だから署長みずからが現場に来ているのだが「コロンボくん、そばにいろ」と何度命令されてもウロウロしてしまうあたり、犯罪捜査の天才ぶりと、コロンボが捜査自体を愉しんでいることがうかがえる。
魅力的な候補者は、自作自演の狙撃事件の矛盾をコロンボに突かれて万事休す。理想家肌で、人気もあった彼がめざしたものが「犯罪の撲滅」であった皮肉。だからこそ、警察をなめていた結果がこの始末。ロス市警には、イタリア系の優秀な刑事がひとりいたというのに……。
Vol.21「意識の下の映像」につづく。