三浦しおんの直木賞受賞作の映画化。まほろのモデルは町田ですって。わたしが小田急沿線に住んでいたころとは違い、やはり小田急沿線にいま住んでいる息子によると、町田は“すげーでかい街”なのだそうで、プチ新宿化しているのだとか。ふーん。
そんな便利な街なので、住民はそこで生まれると一生そこに住み続けるか、出て行ってもまた帰ってくると語られる。この設定はストーリーの核になっていて、ラストに効いてくる。
便利屋で日々をしのいでいる主人公(瑛太)のところへ、中学時代の同級生、行天(松田龍平。ぎょうてん、という名前が実にいい)が大晦日に転がりこんでくる。彼らふたりの、衝突しそうでしきれない一年間のお話。便利屋の仕事を通して、彼らふたりの過去が次第に観客に見えてきて……
テーマは「人生はやりなおせるか」。登場人物たちの多くは何らかの欠格やトラウマをかかえていて、そこから脱却できずにいる。自己完結できる街、まほろから出て行けないのはそのせいもあるだろう。
特に、ある事情をかかえている行天の走り方は、自我を守るために必須なのかもしれない。かなり研究したはず。主人公の軽率な行動で彼は小指を一度欠損していて、いまは回復している。やりなおせる人生の象徴。しかし、ある登場人物がラスト近くで小指を失う設定になっているあたり、うなるほどうまい。そう簡単にはいかないわな。
実は、わたしもこの映画のあるキャラと同じ経験をしたことがあって(不倫じゃないぞ!)、飄々と暮らしているはずなのに、ある時点で感情が激発してしまうのがよく理解できた。そんなわたしだからなのかもしれないけれど、この映画はちょっと“語りすぎる”ように思えた。瑛太や松田龍平の微妙な演技で観客を納得させているのに、どうもセリフで説明しすぎているのが惜しい。
監督(大森立嗣)のお父さんや弟がいい味で演じていたり、片岡礼子と鈴木杏がコロンビア人娼婦を自称するという(笑)、泣かせるキャスティングもあってかなり楽しめたので、そこんとこ次回はよろしく。ススキノ探偵のアシストと掛け持ちで松田龍平は忙しいことだろうけどさっ。