・およそ生身の人間がしゃべっているとは思えないセリフ回し
・画面のなかを横切るボール、子ども、紙飛行機
・沈黙を利用して情感を高めるやりとり
……「処女作にすべてある」という格言が納得できる森田芳光のメジャーデビュー作。日大の落研所属という出自をいかして、売れない落語家の宙ぶらりんな日常を描く。
それにしても「ライブイン茅ヶ崎」という8mm作品がぴあのフィルムフェスティバルでグランプリをとったとはいえ、まだ海のものとも山のものとも知れない若僧の低予算作品に(森田は父親所有の自宅を担保に4000万円を用意した)出演を了承し、それどころか文字通り身体をはってソープ嬢(当時はトルコ嬢)を演じた秋吉久美子がまずえらい。
女性関係でもどっちつかずで、ソープ嬢と女子高校生のあいだをフラフラゆれうごく主人公の志ん魚(しんとと……伊藤克信)がなんともいい。はじめて入ったソープランドで
「朝でもないのに歯を磨くのって、変ですね」
とつぶやいてエリザベス(秋吉)に気に入られるあたりや、森田作品の白眉ともいえる道中づけのシーンは、伊藤でなければ成立しないのではないかと思うくらいだ。
久しぶりに見直して、つくづく素晴らしいと思ったのは先輩落語家(モデルは高田文夫)を演じた尾藤イサオだ。軽い軽い。志ん魚との天ぷらそばをめぐるやりとりもいいが、若い妻と微妙な距離感がある会話が最高。
「じゃあね、明日晴れてたらハイキング。雨だったら……今夜3回しようね」
「雨だったら?どうやってわかるの?」
「天気予報聞きなさい天気予報」
「………………雨だって」(だ、にアクセント)
長く二つ目だった彼は、最後にようやく真打ちに昇進する。しかしそのパーティに妻はあらわれず、志ん魚とともに少し憂鬱な表情のままパーティは終わる。わたしもため息が出た。大傑作。見逃している森田作品を、これからコンプリートすることを決意。