もっとも、伊坂幸太郎の長編が政治的でなかったことなど一度もなかった気もします。たとえば、「魔王」とその続編である「モダンタイムス」のように直接的な形ではなくても、異世界における支配と被支配の関係性など、今回も戦争や政治の本質をこれでもかと描いている。
「この国」(夜の国でもある)が、対立する鉄国(敵国の意)に襲撃されるシーンからドラマははじまる。国民に慕われる王が射殺され、これからどうなるのかと不安が広がる。
この国にはもうひとつ不思議な風習があって、国境にクーパーとよばれる巨木があり、そのなかの一本が蛹化し、のちに動き回るという。そのため、えらばれた国民が兵士としてクーパーを退治に行くことになっていた。
おそらく読者は作者の寓意をさまざまに読み取るはず。アメリカ、北朝鮮、ベルリンといった具体的なことがらだけでなく、統治とはなにか、良い政治とはなんなのか……。
まあ伊坂のことだから素直に受け取っているだけでは見誤る。第一、この話を語っているのは、トムという猫なのだ。トムとくればネズミも当然出てくるわけで、そのジェリー(中心の鼠)は礼儀正しく、しかも徹底的にクールだ。
「我々のほうから、決まった数の鼠を、あなたたちに差し出します。そのかわりに、それ以外の鼠には、手を出さないようにしてもらいたいのです。」
その鼠には印をつけ、こう言ってその鼠たちに納得させるのだと。
「大事な役割があるのだ、と前向きに考えてもらうことはできます」
これが軍の発生でなくてなんだろう。クーパーの兵士と同様に……あああネタバレ。
後半は、すべてをひっくり返すおなじみの展開。東京創元社というミステリの老舗だからこそ許される趣向だろうか。創元育ちの倉知淳は『実家で過ごしているよう』と言っているくらいだからね。
もっとも、今回はそのどんでん返しがうまくいきすぎている感じ。ある有名な作品が下敷きになっているんだけど、そっちは途中で想像がついちゃいました。うれしかったっす(笑)。
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夜の国のクーパー 価格:¥ 1,680(税込) 発売日:2012-05-30 |