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「のび太の結婚前夜」は、そのタブーに敢然と挑み、そして成功した希有な例となっている。実はドラえもんにはタイムワープものがけっこうあり、というよりドラえもん自身がのび太の子孫を救うために現代にやってきたという設定なので、成長したのび太の姿は随分と見かけている。
しかし、ここまで本気で彼らに「大人の物語」を演じさせたのは今回が初めてだし、小津安二郎を意識した演出(花嫁衣装の試着室の前で、やけに丁寧に揃えられる靴、とか)を考えても、作り手は明らかに確信犯としてアニメで「麦秋」(※)をつくろうとしたのだ。その志は高い。
※「麦秋」
小津安二郎監督。笠智衆・原節子主演とくれば、どんな映画か想像していただけると思う。
ストーリーは、単なるしずかちゃんのマリッジ・ブルーのお話。と言ってしまってはミもフタもないが、どうしてこんなに泣けたのだろう。
なにしろ、数多くのドラえもんを観ているとはいっても、わたしはこのシリーズにそんなに好意的な観客ではない。
特に近年の作品は環境保護を前面に訴えるメッセージ色が強すぎて楽しめないし、これなら原恵一が作る「クレヨンしんちゃん」の方が活劇として素晴らしいと思っている。
数年前、子どもたちの間で「ドラえもんの最終回は、すべてが植物人間だったのび太の夢にすぎなかった、というオチで終わる」こんな噂が流布されたときも、逆にそんな哀しい発想をするほどドラえもんをマジに見ているのか、と驚いたくらいだ。
秘密は、先に述べた「成長しないことの幸福感」にあるようだ。以下次号。
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