……二十年ほど前、藤沢周平をわたしにすすめてくれたのは当時の同僚。高校の先輩でもあったその社会科教師は、職員室で「いいよ……藤沢周平はほんとうにいい」と温厚な人柄そのままに小声で語った。
歴史小説はともかく、人情の機微とかを描いたりする時代小説には縁がなく、そのなかでもひたすらに暗そうな藤沢の作品を一冊も読んだことのなかったわたしは「じゃあ、最初に読むとしたら何がいいんですかね」と先輩にきくと……
「『橋ものがたり』かな。あれは絶対だ。」
このアドバイスはきいた。以降わたしは藤沢の世界に耽溺し、アッという間に全作品を読破。そして新作を待ち望むようになった。簡単だーおれって。
作品群が「武家もの」と「町人もの」に分かれることは「橋~」を特集したときにお伝えしたけれど、もうひとつくっきりと色分けできるのは、前期の作品が徹底的に救いなく暗いのに比べ、特に晩年はほんわかと明るく、温かい傾向にあることだ。これは多くの人が指摘するように、初期の暗さは、自身の病と、最初の奥さんの死が影響したのだろうし、二度目の奥さんの人柄が(ルックスを見れば一目瞭然)後期の作品を明るいものにしたのだと思う。「用心棒日月抄」や「獄医立花登」の変容がもっともわかりやすいだろうか。以下次号。
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