週刊文春連載「本音を申せば」の年1回の単行本化が途切れているなあ……と思ったらこんな経緯だったのか。脳梗塞で小林信彦は倒れていたのである。
その回復の過程と、無茶をして骨折するなどした私生活が静かに語られている。しかし、その内容は奇怪なもので、“信用できない語り手”によるミステリのようにも読める。
もう四十数年にわたって彼の著作に親しんできた身からすると、むしろ彼の小説としての最高傑作になっているのではないかと本気で思う。露悪的に性的倒錯を隠そうともせず、家族関係についてもうっすらと邪悪なこともしのばせている。
彼の本を読むたびに、もしもこの世に小林信彦がいなかったら、はたして自分はどんな人間になっていたろうと思う。彼の不在が、否応なしに近づいていることを思い知らせてくれる本でもある。
オヨヨシリーズから幾星霜、わたしたちは彼の不在に備えなければならず、そしてこれだけ長いこと小林信彦的言辞を発し続けてくれたことへの感謝を……あ、まだ亡くなってません(このように、意地でもオチをつけたくなるのは明らかに小林信彦の影響)。
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