【シーン108 街道】
三十郎と室戸、街道へ出て対峙する。
これからの二人の決闘は、とても筆では書けない。
長い恐ろしい間があって、勝負はギラッと刀が一ぺん光っただけできまる。
オリジナルもリメイクもまったく同じシナリオを使っている。でも森田が「演出はまったく違うものにしようと思っている」と意図したように、ラストの決闘シーンはかなりひねってある。ネタバレになるので詳しくは書けないけれど……
・あれだけの至近距離で向き合えば、両者の力が拮抗しているかぎりあんなやり取りになる可能性は確かに大きい。
・「いい刀は鞘におさまっているべき」というテーマにそった殺陣になっている。
くわしくは作品を観て。でも、「たそがれ清兵衛」における田中泯と真田広之の決闘が“リプレイが見たくなるほど”凄絶だったのにくらべ、まさかホントにリプレイをやるとは(T_T)。
さて、キャスト。織田裕二は演技ができない人だし(それでも一枚看板で作品をささえているのだから皮肉抜きで立派なものだ)、豊川悦司の室戸は予想がつく。藤田まことと中村玉緒は単なるイメージキャストに終わり、オリジナルの入江たか子と伊藤雄之助の偉大さが身にしみる。「間宮兄弟」で笑わせた佐々木蔵之介は健闘したが、小林桂樹のおとぼけぶりにはやはりかなわない(押し入れ侍であれほど観客をわかせた小林は、なぜかその後一本も黒澤作品に出ていない。なにがあったんだ?)唯一の不確定要素は松山ケンイチ。彼のはたらきで作品が化けるかと期待したけれど、そこまでは無理だった様子。興行も惨敗である。織田作品はイマイチの成績が続いたので、むしろ「踊る大捜査線3」の製作が早まると東宝は喜んでいるかも。
※若侍のなかに絶対にスターになるイケメンがいて(オリジナルで平田昭彦が演じた役)、なかなか楽しみだ。お嬢様を演じた鈴木杏は、もうけ役とはいえキュート。藤原釜足が演じた用人を、なんと風間杜夫がやっているんだけど、めちゃめちゃはまっていたのには泣いた。彼のファンの本音を聞いてみたいところだ。加えて、大島ミチルの音楽こそ、誰よりもクロサワしていた。
それでは今回の再映画化は無駄だったのだろうか。わたしはそうは思わない。黒澤映画に挑もうとした心意気は、本物の時代劇を継承するために絶対に必要なものだったはず。なにより、「椿三十郎」という娯楽映画の最高峰と、三船敏郎という偉大な役者が存在することを現代人に知らしめた功績は大きいではないか。あ、これも皮肉じゃなくって。ホントよ。
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