夜のお仕事Ⅱはこちら。
12月31日に亡くなる人もいれば1月1日に亡くなる人もいる。死者は日付を選べない。当然、お盆の8月13日に亡くなる人もいるわけで、しかしそれが自分の縁戚である場合はしんどい。お坊さんの手当とか念仏の仕切りとか。
「そうですね。8月の13日と14日はお坊さんは檀家めぐりでいっぱいいっぱいですから。」
13日に天寿をまっとうした分家のじいさんの葬儀は、地元の葬祭業者が取り扱っている。彼らの仕事こそ“盆も正月もない”商売だ。
参列する立場からすると、近ごろはホール葬が増えてきたのでだいぶ楽にはなった。暑かったり寒かったり、好天だったり荒天だったりに一喜一憂しなくてもいいし、台所をあずかる主婦にとっても、うるさ型の近所のおばさん連中にかきまわされることもない。
「え、自宅でやるの葬儀?!」
でもウチの分家は自宅葬にこだわった。わたしも天を仰いだが、お手伝いに出なければならない妻の嘆きはもっと大きい。
「ったくホールでやればこんなしんどい思いをしなくてもいいのになあ」
暑い中を戸外で受付をさせられたわたしは、別の分家のお兄ちゃんと嘆き合う。
「そうはおっしゃいますけどね、自宅葬とホールとじゃ、これだけ違いますよ」と葬祭業者は指を三本出してみせる。
「……30万?」
「そうです。いちばん下のランク同士を比べた場合ですけどね。でも、とにかくお葬式を安くあげようと思えば、やり方はあるんですよ」
「ほう。」
「先日、中国から来ていた人の葬儀があったんですけど、菩提寺ってないじゃないですか。だからお坊さんも呼ばなかったんです。でもお経は必要だろうってことで、仕方がないのでわたしが般若心経を読みました。」
「へー、そんな心得もないといけないんですか」
「このパターンだと全部で13万円。市から弔慰金が7万円出ますから……6万円でやれたことになります」
「なるほどー」
「でもね、中国に帰ってから本式の葬儀をやるらしいんですけど、それが二週間ぐらい延々と続くらしくって……」
うわ。あっちの葬祭業者はもっと大変なのかー。
次回は「セレブの日常」
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