瀬々敬久監督は、作品の上映時間すらも味方につけている。
「ヘヴンズストーリー」は4時間38分。
そしてこの「菊とギロチン」は3時間9分もある。
大正末期、関東大震災のために混乱する日本。実在の(知りませんでした)アナーキスト、というより単なるずさんで無鉄砲なゆすり屋たちが、当時人気のあった女相撲の力士たちと出会い……なストーリー。
この、女相撲が圧倒的なのだ。女優たちを徹底的にしごきあげたであろうことがうかがわれる本気ぶり。みごとな四股を踏み、股割りも完璧。エロ目当てのアナーキストたちが次第に熱狂していく経過が納得できる。
風紀紊乱だとして官憲に敵視される女力士たちは、しかし相撲にすべてを賭けている。小作農家に生まれ、工場で死ぬか、酌婦になるしかないのなら、強ければ認められる実力の世界でがんばると。浮薄なアナーキストたちとの対比。そして彼女たちに訪れる悲劇を、瀬々敬久は最小限のカット割りで延々と役者の動きを追う。作品が長くなろうというものである。
DV夫から逃げてきた花菊(木竜麻生)が夫に暴行され、十勝川(韓英恵)が朝鮮人であることで在郷軍人(震災のときに朝鮮人を殺した人間たち)に徹底的になぶられる姿は
男=体制=国家
女=反体制=民衆
を象徴している。実は「菊とギロチン」というタイトルは二度挿入されるが、その意味合いの変化をその色でも表現しているのだ。おみごと。
お坊ちゃんルックスがぴったりの寛一郎がいい。え、佐藤浩市の息子なの?ということは三國連太郎の孫じゃないですか。血はあらそえないってほんとだな。
それにしても、女相撲の発祥が山形県だったなんて、初めて知りました。震災のあとに、世間が息苦しくなっている現代との相似が瀬々に自前での映画化を決断させたとか。「8年越しの花嫁」「友罪」と絶好調の彼に出資する会社はなかったのか。傑作。
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