北野武の三年ぶりの新作。「アウトレイジ」「アウトレイジビヨンド」で暴力の世界に帰ってきたたけしが、今回もやくざを題材に……でもネタ的には、本当に明日がない(笑)老人やくざたちを描いたコメディ。
これがねー、みごとに笑えないんですよ。コメディと称しながら、映画ならではの笑いになってないの。けんかを売るみたいだけれど、一線を退いた喜劇役者が、むかしのセンスのまま脚本を書きましたって感じなの。刺青、指つめなどの記号でギャグをねらったのだろうけれども、監督自身の(きっとそうなんだと思う)やくざへの嫌悪感がむき出しになるシーンとかもあって、どうにもバランスが悪い。
それでも100万人動員、興収15億というのだからわけがわからない。たけし映画とは、客が入らないことで有名だったのに。そうかひょっとしてお年寄りたちがかけつけたのかな?いやいや場内には若い女性もけっこういる。興行はほんとうにわからない世界なのでした。
しかし藤竜也を見るだけでも金を払う価値はあった。大きなスクリーンに彼の顔がアップになるだけで、そこにはなにかマジックのようなものが生まれ、わたしたちを魅惑する。
この人はしかし不思議な俳優で、キャリアアップしようなどとは毛ほども思っていないのではないか。「愛のコリーダ」で日本初のハードコアに挑んだのだから、名優としての道を着々とすすむ選択肢もあったはずなのに(実際には有形無形のバッシングがあったらしい)、変なドラマにも喜々として(かどうかは知らないけれど)出演したりしている。
渋い二枚目であることを、自分で否定したがっているみたいだ。むかーしのキネ旬で、自分の出身大学(日大芸術学部)へのあからさまな批判をしてみせるなど、かなり意識的な人なのはわかっているだけになおさら。
ファンとしては「悪魔のようなあいつ」(TBS)「友よ、静かに瞑れ」(角川)で見せた、渋みと凄みの同居する藤竜也を、これからも見続けていたいのだが。
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