多作&速書きで知られる辻真先さんはたくさんのシリーズものを書いている。その、キャラのオールスター的な存在が新宿ゴールデン街のスナック「蟻巣(アリス)」ものだとか。「たかが殺人じゃないか」「深夜の博覧会」で名探偵をつとめた(つとめさせられた)那珂一兵も登場します。
しかしタイトルが示すようにこれはシリーズの最終作となっていて、だから那珂一兵がどのようにして退場するかのお話を読んでしまうことになった。
復員してきた若き一兵は、姉とともに祖母の遺体を発見する。その遺体の上には那珂家の墓石がおおいかぶさっていた。犯人はいったいどうやって墓地から墓石を運び、わざわざ二階の殺害現場まで引き上げたのか。そしてなぜそんなことをしたのか。
もうひとつの事件は、一兵が漫画家として成功し、テレビ局がアニメ化しようとしていたときに起こる。一兵の姉が身体を引き裂かれて殺され、現場の密室のなかにはプロデューサーの毒殺死体も……
ネタバレになるので詳しくは明かせないけれども、最初の事件は高木彬光の某有名ミステリのトリックのバリエーションだし、あとの方も島田荘司がもっと残虐にやってます。で、読者が気づくに違いないという前提で書かれている。
だからこの作品のキモはトリックよりも動機や事件の背景を描くことにあったのだろう。不在の名探偵の行動を、スナックの常連客が推理するという体裁がすばらしい。
そして、那珂一兵が成功した漫画家という設定を生かし、辻真先さんが駆け抜けたアニメ業界を描き切ることに主眼があったのだと思う。それはみごとな戦中戦後の芸能史でもある。
そして、作者のあとがきに驚愕の事実が。那珂一兵のモデルって、あの超有名漫画家だったとはっ!
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