米軍のイラク攻撃を憂い、自衛隊派遣に異を唱える情宣を午前1時に書記局に送ったその日に「ラストサムライ」。誇りのために無用な戦いに突き進む最後の侍たちの映画。組合の支部長がこんな映画で泣いちゃいけない(笑)、なんて意地を張りながらも、実は3回くらい涙が流れてしまった。
娯楽映画として、まずは一級品。トム・クルーズについては、俳優として以前に、製作者としてまず優秀だと思っている。いい意味で商売人。ビジネスと芸術性の融合に果敢にチャレンジしているし、くせの強い監督と次々に組み、それなりの成果を上げているんだから、映画人として業界の評価も高いだろう。なにしろ毎日毎日自宅で映画を見まくってるってんだから狂いっぷりも板についている。ニコール・キッドマンを捨て、ペネロペ・クルスに走った経緯から、家庭人として大嫌いという読者もいるようだが。
そのセンスの良さは、この映画でも十分いかされている。このご時世に、いったい誰がわざわざ自分の金を使って「武士道」なんて得体の知れないものを映画化したいと思うだろう。そして驚くことにこの無謀な試みは質的にも興行的にも成功し、クルーズの名はまた上がることになった。
それにしてもさすがハリウッド。【開港してまもない横浜の雑踏】こんな脚本にすればわずか1行にすぎないシーンが、やたらに威風堂々とそびえ立つフジヤマのもと、ディテールに徹底的にこだわって大規模に再現されている。サムライたちの集落の日本家屋の完璧さといい、日本の時代劇の箱庭のようなセットに慣れた目からみれば、資本の威力を思い知らされるというもの。だからこそ逆にわずかなミスをあげつらう向きもあるようだけれど、マコやジェームス繁田しか日系の俳優はいないのかっ!と歯がみしていた“変な日本”しか描けなかった時代からみれば、長足の進歩ではないか。インディアンの虐殺(これってベトナムのことも露骨にシンボライズしている)のトラウマに悩む主人公という設定といい、少しは異文化を尊重しようという機運がハリウッドにも定着して……ま、北米に次ぐ巨大なマーケットである日本を無視できない事情もあるんだろうけどさ。
さて、話題の渡辺謙なのだが……(長くなりそうだからPARTⅡへ)
※劇中に、未亡人役の小雪と、彼女の夫を殺したトムとのセックスシーンはない。このハリウッド娯楽映画方程式からの意図的な逸脱は正解。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます