ということで「ハード・ラッシュ」を撮り終えたコルマキュルは、アイスランドに一度もどって自国資本で映画を撮っている。それが「ザ・ディープ」。
わたしの世代だと、このタイトルを聞けばジャクリーン・ビセットが豊かな胸を海中で揺らした能天気な映画を思い出す。でもこちらは思い切りハードだ。
妙にのっそりした(伏線)船員の地味な日常がまず語られる。常に二日酔い、常に煙草をふかすことは世界共通の船乗りたち。いつもどおりに近海に漁に出るが、ウインチが故障してしまい、船員たちは極寒の海に投げ出される。
「あ、アイスランドって英語圏じゃないんだ」わたしはほんとにアイスランドのことを何にも知りません。実はこの国は日本との共通点がたくさんある。火山国であること、島国であることで他国の干渉を(デンマークなどからの支配期をのぞき)うけなかったこと、バブルに浮かれて国家経済が破綻寸前まで行ったこと、そして独自の言語と文化を守っていること。
他の船員がみな凍えて死んだのに、主人公のグッリだけは海中を漂い、陸地をめざす。海水温4度で生き続けていることすら奇跡。
彼の心のなかには、小さいころにあった火山の噴火の情景や、波間にうかぶカモメとの交流があり、そして空のオーロラを見ながら「ローンを残したまま死にたくない。ちゃんとした生活をしたい」と願い続ける。そして陸地が見え始め……ここからの展開は予想外でした。
途中でそうじゃないかなあと思ったんだけど、このお話、なんと実話でしたっ!この奇跡の生還は、アイスランドでは有名なお話らしいのである。彼は国民的ヒーローになるが……静かな幕切れがすばらしい。
北の小国と侮るなかれ、やはり才能とはどんな場所でも(活火山のように)噴き出してくるんだなあとつくづく。で、次に撮ったのが大娯楽作「2ガンズ」という振幅の大きさ。コルマキュルの今後に、期待大です。
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