「亡国のイージス」を情宣でおすすめしたばかりの福井の新刊。これまでの諸作は互いにつながっていたりしたけれど、これは第二次世界大戦終戦当時の完全独立篇。上下巻で千ページをこえる超大作。「命をけずって書いた」と福井が述懐するぐらい気合いが入っている。でもこの気合いは功罪相半ばする。命はたいせつに。
前からそうだったが、なにしろユーモアもへったくれもなく、ひたすら登場人物たちは運命に翻弄され、傷つき、そして死んでゆく。きついったら。それにまあ描き込む描き込む彼らの過去。
物語はある秘密を含んでいるためちょっとばらせないんだけれど、ひとつだけ言えるのは、潜水艦同士の戦闘のトリッキーさだ。おいおい潜水艦でそこまでやるか。
福井の気合いはこの長大な物語の中に日本人論、ユダヤ論、戦争論、そして近代史の総括までぶちこんでいる。それはいいのだが、若いだけにいまひとつ浅いのだ。いや、別にわたしが左翼で福井が再軍備論者(違うらしいけど)だから難癖をつけているととられてもかまいはしないが。
とりあえず、論議を呼んでいるらしい終章の戦後史、はっきりとわたしは蛇足だと思う。“戦後の日本人が自分の決着をつけることなく終戦を迎えたことで、無責任体制が残った”国体明徴運動の信奉者以外だってそんなことはとっくに気づいている。「終戦後のローレライ」ぐらい、読者にまかせる度量を見せてほしかった。
ま、そんな文句タレながら、3回ぐらいボロッと泣いたし、上下巻で4千円近い出費の甲斐はあったんだけど。
いやそれにしてもローレライの正体には笑ったなあ☆☆☆★★★
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