タランティーノ本人による「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のノベライズ。といってもあの映画とは微妙に、というか大幅にストーリーは変わっている。
映画における印象深いシーンは、レオナルド・ディカプリオが演じる盛りを過ぎたスターが、撮影の合間に子役の娘と語りあい、いきなり泣き出してしまうくだり。このあたりは小説のなかでもみごとに描かれている。
ところが、ブラッド・ピットが演じるスタントマンが、狂信者の群れであるマンソン・ファミリーが寄宿する牧場で壮絶なバトルをくりひろげるエピソードはあっさりと描かれるだけ。
ネタバレになるので微妙なのだが、映画はマンソン・ファミリーがロマン・ポランスキーの自宅に侵入し、奥さんのシャロン・テート(マーゴット・ロビーが演じていた)を惨殺する実話がもとになっている。この、昔々ハリウッドで起こった事件はあまりにも有名なので、だからあのラストが成立したのだ。
ところが、この小説では……これは内緒にしておきましょう。
それにしても面白い小説だ。読み終えたくない、と痛切に思った。戦争で日本人を殺しまくったスタントマンが、アメリカ人にしてはめずらしく外国映画ファンで、三船敏郎や黒澤明に傾倒していくなど(彼がジャップを殺しているからこそ)日本人としてうれしくなってしまう。
同時に、アントニオーニやベルイマンは退屈、と結論付けるあたりは無類の映画ファンであるタランティーノの評価でもあるのだろう。
最初から最後まで、映画映画映画な作品。これを読むために長いこと映画を観続けてきた、と思えるほどの面白さ。
巻末の池上冬樹さんの解説で、映画とこの小説を組み合わせたのが“完全版”だろうとされているのに納得。こりゃ、映画をもう一回観なければ。
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