事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ファーゴ」 FARGO (1996 アスミック/シネセゾン)

2012-06-19 | 港座

Fargoimg03 「ファーゴ」は地名。とにかく寒い。登場人物は極寒のその地で右往左往。

ちんけな営業マンが、軽い気持ちで仕組んだ偽装誘拐が、それこそ雪だるまのようにふくれあがっていく悲喜劇。

スティーブ・ブシェミ、ウィリアム・H・メイシーといった“変な顔”(ドラマの中で実際にそう表現されている)の役者たちが、まさしく水を得た魚のように変な演技をくり広げます。

自分の予想をはるかに上回る展開に慄然とし、おもわずフードをかぶっておびえるメイシーなど、コーエン兄弟の演出もこまかい。

終盤は笑っちゃうぐらいグロいシーンの連続。

平和な、小さな、寒い平凡な町で行われた類型的な犯罪が、どうしてこんな展開になってしまうのか、観客は考える間も与えられない。血なまぐさい殺人の連鎖に、観客の神経が試されているみたい(だから笑うしかなくなる)。

それでも不思議なくらい観おわったあとが爽快なのは(わたしが変態だからでもあるけれど)、フランシス・マクドーマンドのおかげ。

意外なほど有能な保安官役の彼女は、同時に夫に愛され、そのことを十分に知っている幸福な妊婦でもある。彼女がヨタヨタしながら歩き回る姿のおかげで、この映画はどれだけ救われていることか。

あ、そうか。のちにコーエン兄弟が撮った「ノー・カントリー」の異様な緊張感は、彼女がいなかったからかっ!

※ここで意外なふたり特別篇。

フランシス・マクドーマンド(女優) & ホリー・ハンター(女優)

このふたりはイェール大学でルームメイト。関係はここにとどまらず、のちにホリーがサム・ライミやコーエン兄弟と“いっしょに暮していた”ことがきっかけでフランシスは「ブラッド・シンプル」で映画デビュー。そしてのちにフランシスとジョエル・コーエンは結婚することになった。人に歴史あり。

Fargoimg02

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「夜の国のクーパー」 伊坂幸太郎著 東京創元社

2012-06-18 | ミステリ

51mntnfqohl_sx500_cr1480352500_ きわめて政治的な小説。

もっとも、伊坂幸太郎の長編が政治的でなかったことなど一度もなかった気もします。たとえば、「魔王」とその続編である「モダンタイムス」のように直接的な形ではなくても、異世界における支配と被支配の関係性など、今回も戦争や政治の本質をこれでもかと描いている。

「この国」(夜の国でもある)が、対立する鉄国(敵国の意)に襲撃されるシーンからドラマははじまる。国民に慕われる王が射殺され、これからどうなるのかと不安が広がる。

この国にはもうひとつ不思議な風習があって、国境にクーパーとよばれる巨木があり、そのなかの一本が蛹化し、のちに動き回るという。そのため、えらばれた国民が兵士としてクーパーを退治に行くことになっていた。

おそらく読者は作者の寓意をさまざまに読み取るはず。アメリカ、北朝鮮、ベルリンといった具体的なことがらだけでなく、統治とはなにか、良い政治とはなんなのか……。

まあ伊坂のことだから素直に受け取っているだけでは見誤る。第一、この話を語っているのは、トムという猫なのだ。トムとくればネズミも当然出てくるわけで、そのジェリー(中心の鼠)は礼儀正しく、しかも徹底的にクールだ。

「我々のほうから、決まった数の鼠を、あなたたちに差し出します。そのかわりに、それ以外の鼠には、手を出さないようにしてもらいたいのです。」

その鼠には印をつけ、こう言ってその鼠たちに納得させるのだと。

「大事な役割があるのだ、と前向きに考えてもらうことはできます」

これが軍の発生でなくてなんだろう。クーパーの兵士と同様に……あああネタバレ。

後半は、すべてをひっくり返すおなじみの展開。東京創元社というミステリの老舗だからこそ許される趣向だろうか。創元育ちの倉知淳は『実家で過ごしているよう』と言っているくらいだからね。

もっとも、今回はそのどんでん返しがうまくいきすぎている感じ。ある有名な作品が下敷きになっているんだけど、そっちは途中で想像がついちゃいました。うれしかったっす(笑)。

夜の国のクーパー 夜の国のクーパー
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2012-05-30

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怖い町。

2012-06-17 | ニュース

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YouTube: 手紙/THE BOOM

客引き勧誘、繁華街から消える? 改正県迷防条例が7月施行

キャバクラへの客引き、風俗店従業員へのスカウト…。夜の繁華街お決まりの光景が、なくなりそうだ。改正県迷惑行為防止条例が7月、施行される。繁華街で性的サービスを提供する店などへの客引き、勧誘が県内全域で禁止されるが、山形、天童両市内の3区域ではこうした行為をするため路上に立つ「客待ち」行為も禁止されることになる。

「お客さん、かわいい子いますよ」

「キャバクラで働いてみない?」


JR山形駅周辺や天童市中心部でしつこく声を掛けられた経験がある人もいるだろう。客引きや従業員としての勧誘に加え、客待ち行為が日常的に確認されているとして、県警は15日、図の3区域を客待ちも禁止するエリアとして公表した。

改正条例によって県内全域で禁止されるのは▽性的サービス提供店やキャバクラへの客引き▽風俗案内所への誘導▽こうした店で働く従業員のスカウト-など。さらに、3区域内は「客引き、勧誘のため路上に立つのもアウト」(生活安全企画課)となる運びだ。

「街は大きくないのに山形駅前って呼び込みが多くて怖い」

山形駅前はながさ通り飲食店組合の酒井貞昭理事長は観光客から言われたことがあるといい、「家族連れ、女性、観光客が安心して駅前に来られるようになる」と期待する。

ただ▽客引き、呼び込みの立つ場所が店の前に変わるだけ▽警察官の姿がなければすぐ元に戻る-といった懸念がある。「賛否はあるが、公共の場所に防犯カメラを設置する必要性も感じている」という。

2012年06月16日 山形新聞

……すいませんすいません、ちょっといいですか。わたし、山形の繁華街を歩いていてもほとんど声をかけられたことはないし(まあ、わたしに「キャバクラで働いてみない?」とは誰も言ってくれないだろうが)、怖いと思ったこともない。そうなのか怖い町だったのかあ。知らなかった。

にしてもすごいな、防犯カメラもなかったのか。オウムの高橋容疑者逮捕に向けて、警視庁はもてる手段のほとんどをさらしてしまったので内心は悔しがっているだろうが、山形は平和なことだ。ほんとに怖い町なのかなあ。

ということで本日の一曲はTHE BOOM「手紙」。宮沢和史は山形にライブに来たとき、読者にコンビニで目撃されております。奥さんと同様に、すばらしい語り手だ。確かに、鼻くそほじってたって、地球は回っているよ。

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吹けよ風、呼べよ嵐~チャリ通奇譚

2012-06-15 | 日記・エッセイ・コラム

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YouTube: Pink Floyd - One of These Days

学校帰りに、国道7号線沿いのビジネスホテルの前を通っていたら、すれ違う高校生がやけに動揺している。

どうしたのかなと思っていたら、ホテルの真ん前の舗道に黒いかたまりが。

チャリで近づくとそれは人間。どうやら女性。三十代だろうか。

もっと近づいたら別に身なりも悪くないし、なぜ路上にベターっと座り込んでいるかよくわからない。

しかも、なぜか片肌を脱いで、それどころか腕をつっこんで胸まで露出しようとしている。おおおお?高校生と同様に動揺。あ、シャレじゃないっす。

とりあえず、目を合わせちゃいけないとスルー。

「不思議だったんだー」

帰ってから妻に報告。

「何なのかしらねえ」

「チャリこぎながら、ひとつだけ思いついたの」

「なに?」

「ブラをなおしてたのかな、と」

「そんなわけないでしょっ!」

……本日の一曲はピンク・フロイドのOne of These Days。もちろんブッチャーは出てきません。

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刑事コロンボを全部観る~Vol.43「秒読みの殺人」

2012-06-14 | テレビ番組

Trish_van_devereimg01 Vol.42「美食の報酬」はこちら

映画を観ているとき、スクリーンの右上にちっちゃいが出るのに気づかないですか。

あれはキューパンチと呼ばれるもので、映写技師にフィルムの交換をうながすサインなのだ……と知ったかぶりをしてますが、NHKでこのエピソードが放映されたのを見ていたので知ってるだけです。

コロンボはこの手のフィルムまわりのネタを使うことが多いのでお勉強になります。いまはデジタル上映が多いのでありえない設定だけど。

さて、今回もコロンボはおとぼけな登場を。雪山讃歌、じゃなかった「いとしのクレメンタイン」を歌いながらごきげんにプジョーを転がすコロンボの運転はめちゃめちゃ。パトカーに追尾され、警察無線で

「酔っぱらい運転だ。やっと運転している感じだ」

とまで言われてしまう。あまつさえ追突までされてしまい、むちうちに。まあ、自業自得。

今回の犯人はテレビ局の社員。愛人である上司がニューヨークに栄転。自分を連れて行くかポストを用意すると期待する彼女に、上司が用意したのは手切れ金代わりのクルマだけ。

彼女は冷徹に秒読みを行いながらきわどいアリバイを成立させ、愛した男を射殺する。キューパンチがキーになる殺人シーンはなかなかスリリング。しかしその他の部分は……。

むしろ殺人者の性格付けが新しい。貧しい生まれから上昇指向をむき出しにして突きすすむ女性。もはや陳腐化した“キャリアウーマン”的なファッションや歩き方は、当時としては斬新な設定だったのだろう。現在の目からすると思いっきり類型なので笑えるくらい。

演じたのはトリッシュ・ヴァン・ディーヴァー……「イルカの日」の人じゃないか。ということは旦那はジョージ・C・スコットで……うわ、ノンクレジットだけどちゃんと出演してる。仲がいいなあ。

「きみはアシスタントとしては優秀だ。だが決断ができない。まとめるだけだ」

とされた彼女は、コロンボによって犯罪をあばかれるが

「わたしは負けないわ」

と、シリーズにはめずらしい決断をエンディングでくだす。確かに、新しい女性像。

Vol.44「攻撃命令」につづく

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SRサイタマノラッパー1&2

2012-06-13 | 邦画

Sr1img01 やたらに激賞の声ばかり聞こえるので借りてみる。

呆然とする。まさかこんなに感動するとは。

北関東という土地柄とヒップホップのミスマッチの痛さ、高校時代の“序列の低さ”がニートな主人公の現在に直結している哀しさと、だからこそそいつらを大逆転しようと(空回りしながらも)必死になるライムメーカーの姿、元女子高生たちの開き直りがすばらしい。

役者がみんないいが、特に奥田瑛二の娘である安藤サクラが絶品。

それに、ほとんど自主映画のノリなのに、編集がめちゃめちゃうまい。才能というのは転がっているんだなあ。北関東おそるべし。埼玉おそるべし。こりゃ、3作目も絶対観なきゃ。

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必殺仕置人

2012-06-12 | テレビ番組

Shiokininimg01 「第4話 人間のクズやお払い」だけでも見てくださいっ!

とビデオ屋で知人にすすめられたのでレンタル。なるほど異彩を放つ回だ。

なにしろゲストがすごい。狂犬かと見まごうほどの暴れん坊やくざに黒沢年男。彼を下支えしながら、しかし足を洗うと告げた途端に黒沢に腕を切り取られる手裏剣の名手に林隆三である。彼らの過去が切り結ぶ地点に仕置人たちが舞い降りる。

野上龍雄の脚本と、スタイリッシュな三隅研次の演出がいい。その筋の方々の間では(どの筋の人?)世評高いという“子どもまで惨殺した黒沢が表の明るさに目を細める”場面など、地獄と世間が戸板一枚でしか隔てられていないことを強調しておみごと。

ただ、あまりに悪役が魅力的なので、まだ地味な存在である中村主水(もちろん藤田まこと)や念仏の鉄(山崎努)、そしてのちに涅槃に行った沖雅也で太刀打ちできるのかとハラハラ。

少しでも弱みを見せたら子分たちが薄笑いをうかべて殺しに来るという悪党のお手本のような最期は、仕置きという“悪行”に手を染めた仕置人たちの将来を暗示する。

まあ、視聴率がよかったので彼らは何度も何度もお目見えすることになったのだけれども。

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海の男と呼んでくれ2012

2012-06-11 | まち歩き

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YouTube: 2012年6月6日イカ釣り船団出航式

もう恒例になってしまったいか釣り船団出港式の動画です。おととしのはこちら

実は酒田のお偉いさんたちも大挙して登場する一大イベント。今年はちょっと事情があって飛島に行けないので、潮の香りをこの動画で感じることにしましょう。

にしても、こういうシチュエーションで北島三郎は沁みるなあ。家族で函館に旅行したとき、まだ小学生だった娘は「どこ。どこにさぶちゃんはいるの?」とためぐち。わかってんのかなあ。

函館のタクシードライバーは、「この辺だよね、さぶちゃんが流しをやってたのは」と。実際に会うとかなり小さい人なので驚かれるらしい。でも、海の男たちに、彼の存在は巨大だ。

とか言って実は流れてるのが鳥羽一郎とかだってオチじゃないだろな。自信なし。

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「引擎」 ENGINE 矢作俊彦著 新潮社

2012-06-10 | ミステリ

377506 タイトルはENGINEの当て字。ぜったいに変換できない(ATOKでも)題名を使用するあたりが矢作のネットに対する態度でしょうか(T_T)。

スタイリッシュなハードボイルドが真骨頂だった矢作俊彦が、大藪春彦のパスティーシュという形で(前文で矢作の恩人T.K.氏が大藪をめざしなさいと彼に告げたのが本当のことだったかはわからない)むきだしのセックス描写に挑む。

「彼は反転し、押し倒し、脚を高く抱え上げた。膝を曲げ、腿を腹に押しつけ、まるで一冊の本のように彼女を二つに開いた。自分を栞代わりに、そこへ挟み込んだ。
本が彼を締め上げた。それは彼女の一部だった。しかし全体でもあった。
彼は激しく上り詰めた。白い頁がはらわたを食いちぎり、破れ目から自分がどっと流れ出した」

……やっぱりどうしても矢作調美文になっちゃう(笑)。

スーパーウーマンである兇手、タイトルにもなっているエンジンがあまりに魅力的なので、エンディングには少し不満も。

ENGINEというクルマ雑誌にENGINEというタイトルで連載するおしゃれさは、二度使うのは野暮というもの、という矢作の薄ら笑いも感じるけれど、スズキさんはもっと長い連載を期待していたと思うな。

Nシステムに絶対にひっかからない方法をクルマ雑誌でかますあたりの邪悪さはさすが。にしても簡単なんですねー。

エンジン/ENGINE エンジン/ENGINE
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2011-05-31

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「ドライヴ」 Drive (2011 クロックワークス)

2012-06-09 | 洋画

Driveimg01 「えっとねー、長井って小国より標高が200mぐらい高いんですよ」

事務室で英語教師が意外なうんちくを。

「どうしてそんなこと知ってるの?」

「むかし乗ってたクルマに高度計つけてたんです。バラードCR-Xだったんですけど(笑)」

うわあ、久しぶりに聞くなあその族グルマ。

「○○センセイは(スカイライン)RSターボに乗ってたらしいっすよ」

「あ、オレはその鉄仮面の前の世代だ。ノンターボのRS。」

ことほどさように、中年男たちには“族ゴコロ”とでもいうべき車への偏愛がある。

「ドライヴ」という、味もそっけもない、だからこそ期待させるタイトルの映画に、たくさんの中年がつめかけているのには驚いた。実は復活したハチロクでも買いたい層?

オープニングの逃走シーンはよく考えてある。犯罪者を逃がすために、ヘリやパトカーからどう隠れるかがうまい。

同様の小細工でわたしの世代が思い出すのはウォルター・ヒルの「ザ・ドライバー」。絶妙の車両感覚で観客をうならせたあの作品(主演ライアン・オニール、イザベル・アジャーニ!)と同様に、甘いマスクの“逃げ屋”が、プロとしての静かな生活からどう逸脱していくかが描かれている。

わたし好みのぬるい恋愛劇が続くので、どこがR15+なのかなあと思ったら、観客がみんなどんびきしたあの瞬間から地獄絵開始。こしゃくなカーチェイスを展開してほしいという願いとは違った方向に。

まあ、ちかごろハイブリッドだのEVだのとクルマがエコ方面に向かうのは仕方がないとはいえ、映画ぐらい、燃費悪そうなアメ車がガソリンをぶんまきながら疾走するのもいいじゃないですか。

寡黙な主人公の過去が、血まみれになっても脱ごうとしなかったサソリ模様のアウターでしか説明されないスタイリッシュさはおみごと。実はこれを見てから「マリリン」も観ようと思ってたのにお腹いっぱい。族ゴコロが満足したので、スケベごころの方まで手が回りませんでした。

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