「ファーゴ」は地名。とにかく寒い。登場人物は極寒のその地で右往左往。
ちんけな営業マンが、軽い気持ちで仕組んだ偽装誘拐が、それこそ雪だるまのようにふくれあがっていく悲喜劇。
スティーブ・ブシェミ、ウィリアム・H・メイシーといった“変な顔”(ドラマの中で実際にそう表現されている)の役者たちが、まさしく水を得た魚のように変な演技をくり広げます。
自分の予想をはるかに上回る展開に慄然とし、おもわずフードをかぶっておびえるメイシーなど、コーエン兄弟の演出もこまかい。
終盤は笑っちゃうぐらいグロいシーンの連続。
平和な、小さな、寒い平凡な町で行われた類型的な犯罪が、どうしてこんな展開になってしまうのか、観客は考える間も与えられない。血なまぐさい殺人の連鎖に、観客の神経が試されているみたい(だから笑うしかなくなる)。
それでも不思議なくらい観おわったあとが爽快なのは(わたしが変態だからでもあるけれど)、フランシス・マクドーマンドのおかげ。
意外なほど有能な保安官役の彼女は、同時に夫に愛され、そのことを十分に知っている幸福な妊婦でもある。彼女がヨタヨタしながら歩き回る姿のおかげで、この映画はどれだけ救われていることか。
あ、そうか。のちにコーエン兄弟が撮った「ノー・カントリー」の異様な緊張感は、彼女がいなかったからかっ!
※ここで意外なふたり特別篇。
フランシス・マクドーマンド(女優) & ホリー・ハンター(女優)
このふたりはイェール大学でルームメイト。関係はここにとどまらず、のちにホリーがサム・ライミやコーエン兄弟と“いっしょに暮していた”ことがきっかけでフランシスは「ブラッド・シンプル」で映画デビュー。そしてのちにフランシスとジョエル・コーエンは結婚することになった。人に歴史あり。