いか@ 筑豊境 寓 『看猫録』

Across a Death Valley with my own Distilled Resentment

詐取豪遊高校生の嘯き;あるいは薄められたラスコーリニコフ

2004年12月19日 13時22分29秒 | 日本事情

冬晴れの日に。


おれおれ詐欺で老人から多額の金を騙し取り、高級車を買ったり、フランス料理食ったり豪遊していた(豪遊というにはいじましくてみみっちい気もするが)高校生が捕まった。それだけなら、ただのおれおれ詐欺・振り込め詐欺の低年齢化ぐらいとしか気を留めることもないのだが、高校生の犯人言い分が少しおもしろかった。

(どうせ使いもしない)金を溜め込んでいる老人から金を取って、豪遊することで、消費拡大・経済の活性化に一役買ったものだ。

と、のたまいあそばされたのですた。

 犯罪者の三百代言とは言え、にやりとしてしまった。まるで、ラスコーリニコフみたいだな。彼は老婆2人を殺害しちっぽけな金しか奪えなかったのと比べても、日本の高校生は人殺しをすることなく、ラスコーリニコフに比べびっくりするほどの金を奪い、蕩尽した。そしてその「動機」は同じである。

 その「動機」。ドストエフスキー作『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフは困窮で学生生活の中断の憂き目にあい、ナポレンオンのような強者はまぬけな凡人を踏み越えて歴史的使命を果たすべきであるという「理論」を持ち、「寝台の下に赤革のトランクを入れている、痩せこけた、うすぎたない、小役人の後家の金貸し婆あ」を殺害、金を奪う。

 日本の高校生・犯罪者は事件前にその動機と理論を自覚・表明していたわけでわないことは、ラスコーリニコフとの大きな違いではある。もちろん犯罪日本人高校生も、目先の欲で犯罪を犯して、上記の理屈は後付けの言い分であろう。その言い分は言い訳にさえならない。しかし、理屈としてはおもしろい。泥棒にも3分の理屈とはよく言ったものであるし、かの大宅映子女史も、日本の老人は金を溜め込んでいてそのことが経済を停滞させているという高校生犯罪者の一部を、認めていた。

 それにしても、ラスコーリニコフにしても日本人高校生詐欺師にしても、自分達の犯罪の正当化のダシになにか言うが、日本のこの詐欺事件では需要拡大・経済活性化、その犯罪が遂行されたとしてもその建前や目標の推進への寄与は些細である。したがって、実効性がないので、彼らの言い分は論理的でさえない。考えてみれば、今度の高校生詐欺師が薄められたラスコーリニコフというより、ラスコーリニコフの理屈ややったことがちんけだったと言えるかもしれない。現代の本当のラスコーリニコフは、自由と民主のために戦争をする米国であろう。この問題はまたいつか。

 ところで、ラスコーリニコフや高校生詐欺師よりももっと多額の金を、それも公金を、騙し取った詐欺師がいる。三井物産の26才の社員。東京都などが推進しているディーゼルエンジン用の排ガス清浄化装置の普及、補助金付きに目をつけ、なんら効果のないディーゼルエンジン用の排ガス清浄化装置を製造・販売したうえ、おまけに都や県の補助金を騙し取っていたのである。石原都知事からは、やくざまがいと罵倒され、世間からは国賊と非難ゴーゴー。

 この26歳物産社員は何を考えいたんだろう?彼の一番のまぬけさは上記のラスコーリニコフや高校生詐欺師のような建前さえないのである。たとえば、どんなに公金を騙し取ったとしても、それで空気の清浄化に役立ったのであればまだしも、なんの「歴史的使命」もないのである。三井物産はなにがなんでも、お上をだましてでも金儲けせー、ということなのだろうけど。だから、社内では案外ラスコーリニコフできるのかもしれない。