ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2012.3.3 尊き使命感を支えるもの

2012-03-03 19:56:45 | 日記
 いつも楽しみにしている朝日新聞のネット記事、小笠原先生の「診療所の窓辺から」というコラム。3月1日版を読んで、30代の進行がんの女性患者さんと先生の心の交流に、思わず涙がこぼれた。

 以下、転載させて頂く。

※  ※  ※(転載開始)

診療所の窓辺から 握手を交わす 患者と医師の関係  小笠原 望

 ぼくの診察室の入り口には、のれんのように三つにくびれた若草色のカーテンが掛けてある。患者さんはそののれんをかき分けて、診察室に入ってくる。車椅子の人も、杖を使う人も、端っこからでなく真ん中を突っ切るようにして入る。若いときからの癖なのだが、ぼくは患者さんの入ってくる様子をじっと見ている。
 三十代の女性の患者さんの名前を呼んだ。高血圧で通院している姉から、ずっと相談を受けていた。二年前に胃がんを手術したときにはがんは広がっていて、そのまま何もしないで手術を終わったと聞いた。術後の化学療法も効果がはっきりせず、今は対症療法だけだった。
 姉からの話では、一日中あまり動かずに話も少なく、自分自身もどう対応していいか戸惑っているとのことだった。「抑うつ気分が何とかならないか」を目的に、本人が受診することになった。
 その患者さんの診察室に入ってくる歩き方がおかしかった。突っ張ったような足を引きずるような感じだった。椅子に座ったところで話を聞きながら、手足の筋肉の緊張を診た。パーキンソン病に似た、筋肉の硬さがある。薬を聞いた。長く吐き気を止める胃の運動を助ける薬を飲んでいた。
 まず、その薬を休んでみることにした。それにパーキンソン病の薬を少量処方した。がんの様子は全部告知されていた。気分ももちろん落ち込んでいて、何をする気にもならないことを口にした。
 県立病院の主治医に、手紙を書いて一剤の中止と、抗パーキンソン剤と抗うつ剤の投与を知らせた。少しでも動きやすいように、こころが軽くなるように一緒にやってゆくことを約束した。
 二週間に一回の通院が続いた。診察室の会話が多くなった。少しずつ動きも良くなった。半年が過ぎたときに提案があった。
 「リハビリテーションはどうでしょうか。病院を紹介してくれませんか」。ぼくは、一日をほとんど動かず、話もしない毎日を過ごしていた患者さんの状態の変化と、前向きな気持ちがうれしかった。もちろん紹介状を書いた。
 週に二回リハビリテーションに通い、ぼくの診療所に三週間に一回来てくれた。しかし、平和な日々は長くは続かなかった。
 「乗り物酔いでしょうか。今日は吐きました」と、診察室で不調を口にした。おなかが張って痛みもあり、腹水もあるようだった。
 「県立病院を受診します。必要なら化学療法を受けます」と、穏やかな顔で穏やかな口調だった。がんの患者さんの根本的なことには、ぼくは何の役にもたたない。とっさにぼくのしたこと。患者さんに握手を求めた。右手を差し出して、「ぼくの出番があるときには、遠慮なく連絡をください。応援しています」。患者さんも躊躇(ちゅうちょ)なく手を出した。ぼくはぼくの気持ちを込めて手を握った。ぼくのような田舎医者のできることは、こんなことだとちょっと悔しい気持ちもあった。
 数日後、ぼくのケータイが鳴った。「入院しました。化学療法を受けます。何かのときには電話してもいいですか」と明るい声だった。「応援しています。電話、待っていますよ」と答えた。
 少し役割を果たしている、かかりつけ医としてのうれしい気持ちが胸に広がった。(朝日新聞発行の小冊子「スタイルアサヒ」2012年3月号掲載)

(転載終了)※  ※  ※

 「役割を果たしている」-医療関係者の方たちのこの言葉を聞くと、本当に胸が熱くなる。多忙で精神的にも肉体的にも厳しい職場環境の中で、その尊い使命感を支えていくのは、他でもない私たち患者だ、と思う。なんて素敵な握手なんだろう、と思う。彼女はどれほど心が温かくなったことか。

 先日、通院時に針刺し名人看護師Oさんに感謝の言葉を言ったら、「私、少し役に立っていますか?」などとおっしゃった。「とんでもない!少しどころか、本当に感謝してます。頼りにしています。(願わくばどうかずっとこの部屋にいらして、異動しないでくださいね。)」と。(カッコ内はそうもいかないだろうから、と口にはしなかった。)

 そう、何より人の役に立ちたい、人との関わり合いが好きで、病で弱っている魂を救いたい、と職を志した素晴らしい方たちなのだ、と思う。だからこそ、私たち患者がそういう方たちを燃え尽きさせたり、疲弊させては決していけないのだな、と。

 今日は雛祭り。息子は高校卒業式だが、高1は参列なし、ということでお休み。それをいいことに久しぶりの土曜日の朝寝坊。お腹は空いているのに全然食欲がなく気持ち悪さが続いている。ナウゼリンを飲んで少しだけ頂き、最後のデカドロン4錠を飲み終わる。
 その後、2回ほど洗濯機を回しただけで、だるさがとれず、ひたすらリビングで横になってだらだらと過ごしてしまった。午後からは久しぶりにホットフラを予約していたが、キャンセル。
 結局、家から1歩も外に出ず、夕食も夫にお任せ。夜になってようやく味がわかってきて、食欲が出てきた。昨夜夫が買ってきてくれた雛祭りの和菓子、昨日は見向きもしなかったのだが、先ほどようやく味わうことが出来た。明日は普通に過ごせますように。



コメント (2)
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