昨夜もなんとか日付が変わらないうちにベッドに入れた。夜中に1度お手洗いに起きて、再びしっかり眠り、あっという間に目覚ましが鳴る。
今日も晴天、30度を超える予想だ。こちらに来てから雲の一かけらも見たことがない。空はどこまでも果てしなく澄み切っている。
連泊なので荷物出しがなく、気分的にとても楽。支度をして朝食レストランへ向かった。ビュッフェである。今回初めて名物のイワシを頂く。果物も豊富、絞りたてのオレンジジュースがお腹に染みる。ツアーの皆さんは朝が早い。私たちはちょっと出遅れた感じ。
出発は8時の予定だったが、5分近く前に全員が揃って早めに出発。
今日は240Kmの距離を3時間ほどかけて隣国スペインに入国する。EU内で川を越えればスペインなので特に問題ないと思うけれど、念のためパスポートを忘れないように、と添乗員さんからのご注意がある。順調にバスは北へ進み、今日の聖地巡礼を前に添乗員さんから新約聖書、旧約聖書のお話がある。バスに乗るとついつい眠くなり、なんとなくウトウトしながら聞く。
ミーニョ川を越えると「はい、ここが国境です。ここからスペインです」とのこと。あっという間に通り過ぎ、国境を示すEUのマークが写真を撮る暇もなく後方に流れる。
海外研修中の年末年始休暇に夫とアンダルシア地方を訪れて以来のスペイン、24年ぶりということか。まさかこの遠い国にまたやって来ることが出来るとは。
出発して1時間半ほど過ぎたところで、スペイン最大の漁業の街ヴィーゴでお手洗い休憩。初めて日本人の団体バスと遭遇する。こちらはかなりの大人数だ。ここで時差が1時間発生するが、ややこしいので私たちはポルトガル時間のまま今日も過ごすお約束だ。
高速道路から見る水面が光る海が広がる景色が素晴らしい。ここまでくればあと1時間ほどで歓喜の丘(モンテ・デ・コソ)に到着するとのこと。
聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラには自治州政府(シュンタ・デ・ガリシア)が置かれ、ガリシア州の政治の中心であると同時に、宗教的には大司教座が置かれている。キリストの12使徒の一人聖ヤコブ(スペイン名:サンティアゴ)の遺骸が祭られているため、古くからローマ(バチカン)、エルサレムと並ぶカトリック教会の世界三大巡礼地となり世界中から巡礼者が絶えないところだ。
うーん、さすがに今後エルサレムに訪れるのはちょっと厳しそうだけれど、こうしてローマを訪れてから30年近くを経て、2つ目のパワースポットに足を踏み入れることが出来るとは。この旅行が実現するまで想像だにしなかった。
巡礼は四国のお遍路さんのようなものか。今ではスポーツとして楽しむバックパッカーのような巡礼者も数多いそうだ。実際、バスの車窓から巡礼者を沢山見かけた。皆、ホタテ貝(お皿にもなる)と瓢箪(水入れ)を下げた杖を持って歩いている。そういえばギラマンイス観光中に石畳にホタテ貝のマークが刻まれていた。この道は聖地に続くという道案内だったのである。
世界遺産に登録されているのはフランスからピレネー山脈越えの巡礼路だという。スペインに入ってからも800Kmという長い道のり。終着地まであと5㎞という歓喜の丘に立てば、眼下には遙か彼方にサンティアゴのカテドラルが見える。それはそれは歓喜に沸いたことだろう。実際に「歓喜の丘」に登ってきたが、あたりは野花が咲き乱れ、本当にのどかな雰囲気。巡礼街道で初めて大聖堂の尖塔を臨むことが出来る地には、巡礼者の2体の銅像がその方向を向いて静かな喜びをたたえて立っている。当然ツーショットをお願いする。どこまでも広がる青い空の下、なんだか力が漲ってくる感じである。
カテドラルを目指して再びバスに乗り込む。青空とやや赤みがかったカテドラルの後ろ姿が圧倒的に目の前に迫ってくる。昼食までの時間、オブラドイロ広場で写真撮影。最近まで行われていた外観工事が無事終了し、完全な形で拝むことが叶ったカテドラルの向かいは市庁舎、右側にはパラドール(ポルトガルのポサーダ同様、修道院等の建物を利用したスペイン国営のホテル)、左側には市街へ行く道が延びている。それにしても凄い人出である。老いも若きも色々な肌の色の各国の人たちが嬉しそうに写真を撮ったり、寝っ転がっていたり。メキシコのダンスを踊っている人や、バグパイプを演奏する人。機関車の乗り物が広場を行き交い、実に賑やかなことだ。
ランチの予約時間になり、5つ星パラドールホテルへ入る。さすがに素晴らしい造り。ロビーのソファでくつろぎながら、飾ってあるピエタの置物やマリア様の彫刻をあれこれ拝見する。
地下の素敵なレストランでこの上なく優雅な雰囲気の中、贅沢にコース料理を楽しむ。昨年度ミシュランの星を取ったというとおり、ウエイターたちの動きもとても洗練されている。タコのジュレ寄せの前菜、ガリシアパイ、イベリコ豚のステーキや3種類のデザートの盛り合わせを心ゆくまで時間をかけて堪能した。夫と息子は赤ワインを飲んで幸せそう。
レストランの出口で現地のガイドさんと合流して、観光スタート。
お土産物屋さんを横目に見ながら、まずは市民の憩いの場である公園方面へ向かう。ここからのカテドラルの姿も素晴らしいフォトスポットになっている。一日中カテドラルを見ていると人の像が置かれたベンチもあり、ここでもツーショット。公園の中で、日本から寄贈されたという椿がしっかりと根を生やしている姿を見て驚いた。
旧市街は1985年に世界遺産に登録されている。ホタテ貝のマークが掘ってある建物は教会の所有物だというが、15世紀に建ったという建物がそのままカフェ等に利用されている。石造りのアーケードは意外と涼しい。日陰に入り、風が吹くと暑さを忘れてひんやり心地良い。
一通り回っていよいよ巡礼の終着点・聖ヤコブの眠るカテドラルへ。簡単な手荷物検査があって大聖堂の中に入る。圧倒的な大きさだ。残念ながら聖ヤコブの墓は夏休みのせいか長蛇の列で1時間待ちとのこと。それでは出発時間に間に合わず、ツアー全員が参拝を断念。広いカテドラル内を回って複数の礼拝堂を見、中に入って静かな空間の中に身を沈めると、本当に心が洗われた気持ちになる。
ショップで可愛いカテドラルの模型を買い求め、その後カテドラルを出て、最後の巡礼路である坂道をゆっくりと歩いてみる。ここにもホタテ貝のマークが。広場近くのお土産物屋さんで絵はがきを買ったりして時間を過ごし、集合時間にホテルのロビーへ。
再び3時間ほどかけて往路と同じ経路でポルトに戻る。帰路も、EUのマークの写真を撮る間もなく国境を超えてしまった。ポルトガルに戻ると外の気温は36度とのこと。サンティアゴが31度ほどだったので、こちらの方が暑かったようだ。途中お手洗い休憩を経て、ホテルには夕食予定の1時間前に戻ってくることが出来た。
隣の国に行ったとはいえ、通貨はユーロで変わらないし、パスポートコントロールもなかった。あっけないくらいだ。思えば30数年前の卒業旅行で友人とヨーロッパ各国周遊したときには、国が変わる度に通貨は変わり、パスポートコントロールも厳しく、もちろんネットもスマホも携帯電話も何もなかった。そんな時代から思えばどれほど世界は便利に近くなったことかと思う。
夕食までの間、ホテルの向かいにあるスーパーを物色し、ちょっとした缶詰やお茶等を買ってきた。そしてホテルのメインダイニングでディナータイム。生ハムとパイナップルのサラダ、スズキの蒸したものをメインに、チーズケーキのデザートでお腹いっぱいである。夫と息子はヴェルデ(緑の)ワインでまたしても真っ赤である。どこかにバスに乗って出かけるという煩わしさがないのが疲れた身体には有難かった。
今夜も同じホテルに連泊。明日は4カ所を巡りながらリスボンへと戻る。明日訪れるのを楽しみにしているロカ岬で、今日の夕方、邦人ではないが、滑落事故があったという。風が強く足場が悪い場所もあり、くれぐれも注意してくださいとのこと。心して行かなければ。
さてこの旅も後半に入った。なんとか体調も持ち堪えている。暑さと強行軍、本当にゼローダをお休みにして良かった、と思う夜である。