ディーヴァー作品のような入り組んだ迷路の奥にまた迷路というミステリを
いくつも読んだあとにこういう〝ファンタジックミステリー〟に取りかかったら、
シンプルすぎるかに見えて、読み始めた当初、拍子抜けしてしまったのだけど、
どうしてどうして、なかなかに侮れない謎解きが隠れていたのだった。
ホスピスに改装された古い洋館は、7年前に未解決の殺人事件が起きたという
曰く付きだった。そこの入院患者たちは皆それぞれ断ち切りがたい
この世への未練を持っており、そのままでは地縛霊になること必至。
そこで彼らの未練を解消すべく、死後の魂を天井に導く死神の「私」が
ゴールデンレトリバーの姿で降臨してくる。
入院患者の皆がかつてこの洋館や洋館の住人に関わりがあったというのは
出来すぎの感があるが、これはミステリというよりは、ファンタジーなのだ。
しかも、ファンタジーでありながら、戦争中に端を発するできごとから
それゆえに起きた7年前の殺人事件まですべてをきちんと解き明かしてみせる。
クライマックスには全員で戦うという攻防シーンまであり、いくら探しても
見つからなかった捜し物は最後、思わぬところで見つかる。
ホスピスという場所柄、登場人物たちは次の春を見ることはないのだが、
心温まる読後感だった。
高貴な霊的存在が、犬の姿になったことで、地上の肉体的歓びを知り、
シュークリームに首ったけというのが、なんともカワイイ。
何ヵ月か前に、同作者の『仮面病棟』を読んだが、わたしはこれの方が
はるかに好きだ。
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