散日拾遺

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イリハム氏 ~ 分離をめぐる寛容と不寛容/あずましくない

2014-09-24 07:40:00 | 日記
2014年9月24日(水)

 中国でウイグル族が置かれた政治状況などを発信し、国家分裂罪に問われたウイグル族の経済学者、イリハム・トフティ氏に対し、新疆ウイグル自治区の裁判所は23日、無期懲役と政治的権利の終身剥奪に加え、全財産を没収する判決を言い渡した。穏健派とみられてきた学者に対し、重い判決を下した。
(朝刊7面)

 イリハムが姓でトフティが名、ウイグル族はトルコ系である。
 「ウイグル族の権利擁護を訴える一方で、ウイグル独立の主張には賛同してこなかった」とあり、そうだとすればこの政治的判決は中国政府にとって大きなマイナスに働く可能性がある。

 スコットランド/カタルーニャのありようと、見事というくらい対極的だ。ユーラシア大陸の、西と東のコントラストである。
 岡村昭彦が移住したアイルランドの歴史に見るとおり、西側でもつい最近まで状況は違っていた。イリハム氏のこと、早晩、国際社会で問題になるだろう。

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 T君と近々また会う相談をしていて、彼が「その日は『あずましくない』ので」と書いてきた。
 面白い言葉、Yahoo知恵袋のベストアンサーに依れば、由来は下記だそうだ。

by uwotariさん 2007/8/1315:00:14「あずましい」
 漢字で書くと「吾妻しい」。意味は「我が妻がそばにいるような居心地のよさ、安心感」が語源です。東北地方の言葉が人々の北海道移住とともに北海道弁として形づくられた言葉の一つだそうです。
 この言葉は始めは道内では「あずましくない」という否定形で多用されていましたが、後に「あずましい」も使われるようになったのだそうです。

 「あずましくない」が原型というのが面白い。伴侶が共にあることのありがたさは、不在の時に意識されるって、深読み?
 日本武尊の絶唱を思い出した。これも喪失の嘆きだが、少し不思議なことがある。
 一行が走水(=浦賀水道)で渡海しようとして風浪に妨げられ、海神の怒りを鎮めるために弟橘(おとたちばな)姫が入水する。
 別れの歌が悲しく美しい。

 さねさし 相模の小野に 燃ゆる火の 火中(ほなか)に立ちて 問ひし君はも

 七日の後に后の櫛が浜辺に流れ着いたので、そこに御陵を築いて葬るが、日本武尊の嘆きはこの時ではないのである。関東に入り、荒ぶる蝦夷ども(東日本に広く広がっていた先住民たちは、現アイヌの祖先とも言われる)を平らげ、帰途に足柄あたりで食事休憩の際に白鹿が現れる。食いさしの野蒜でこの鹿を打つと、目に当たってあっけなく死んでしまった。その時なのだ。

 故、その坂に登り立ちて、三たび歎かして、「吾妻はや」と詔(の)りたまひき。故、その國を號(なづ)けて阿豆麻(あづま)と謂ふ。

 抑えられていた悲しみが遅れてやってくること、后の化身とも思われる鹿を再度うち殺して噴き出す嘆きの激しさ、そして「あづま」の命名まで、素朴にして直らかな古事記の世界。
 「あずましくない」の背後にこれだけの物語が隠れている。そしてここにも、アイヌを圧倒して東漸する「日本」の足取り。