Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(177)

2018-09-03 10:44:57 | 日記

 じりじりとした焦燥感を感じながら、その感情を心の中心から脇へ追い出すよう努力して、彼女は顔を顰めながら地面に置いた石を手に取り転がしました。彼女の内に逆立つ荒波とは逆に、石は順風満帆、極めて順調に歩を進めて彼女の穴の直近に迫ると止まりました。次回を待たなくても蛍さんの勝ちが決まったような物です。しかも抜かされた回数の分がありましたから、続けて石を転がして良いのです。転がす距離もありません。穴にほいと石を置くだけでよいのです。立って行って直ぐ入れようかな、蛍さんは迷いました。

 「ナイスだな。」

蜻蛉君が調子よく、にこやかに蛍さんに声を掛けました。すると蛍さんはぷいっとまるっきりの知らん顔です。彼女はにこりともしないどころか先程迄の様にありがとう等の一言の返事も彼に向けて発しませんでした。

 2人に背を向けたままの茜さんは、『やっぱりね。』と思いました。彼女はこうなる事を予想しながらこの事態を恐れていました。

『またホーちゃんのお得意のだんまり作戦が始まったんだわ。』

と、早くも気が滅入って来ました。こうなると茜さんにとってもこの遊びは面白い物では無くなり、早く切り上げて帰りたい「とある一件」に変わってしまったのでした。次は自分が石を投げる番でしたが、今振り返ると機嫌の悪い蛍さんの仏頂面と目が合いそうで、彼女は振り向くのを躊躇していました。

 そこで、それと気づいた蜻蛉君が彼女に声を掛けました。

「茜の番だよ。」

投げないのかい?


土筆(176)

2018-09-03 10:16:27 | 日記

 「来たじゃないか。」

ほらっ!とばかりに蜻蛉君はニヤリと蛍さんの方に一瞥をくれると、さも自分の見解の方が正しいのだと言わんばかりに茜さんに言い放ちました。

「そうじゃない、見ててご覧。」

茜さんの方も、従妹については私の方が訳知り顔という風に彼に小声で囁くと、素知らぬ顔で蜻蛉君から離れて行きました。そして、この場は私は関係無いという様に、きちっと蜻蛉君に背を向けるのでした。

 蛍さんの方は、取り合えずこの遊びの今回の勝負だけは終わらせるつもりでいました。彼女はもう勝負など如何でもよかったのですが、

「物事は最後まできちんとするものだ。」

「何でも途中で投げ出してはいかん。」

という、今迄の父の言葉の教え通りに、遊びを勝負半ばにして、自分の怒りに任せプイっとばかりに家に帰るという事が出来ませんでした。彼女は途中で帰るという事に考えが及ばなかったというべきかもしれません。

『終りまで、必ずその場にいなければいけない。』

蛍さんは内心うずうずとした嫌気からくる焦燥感に対抗しながら、辛抱強くその場で頑張るようもう躾けられていたのでした。

 『嫌だけど、この回が終わるまでいないと。』

でも、と蛍さんは考えていました。『これが終わって、もしもう一勝負と言われたら、私はしないと言って直ぐに帰ろう。』嫌だけど仕様が無いなと、石を据えながら瞳を伏せて、彼女はこの場にいたくないのを我慢するのでした。