Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(204)

2018-09-22 10:21:39 | 日記

 ではと、蜻蛉君は、任せておけよ合点だ、と言わんばかりに立ち上がりました。気分一新、彼も大きく目を見開きました。さぁ、とばかりに彼は勢いづけると、途中退却の手本を見せ始めました。蛍さんの様子を窺うと、彼は上手く頃合いを見計らいました。

「俺、ちょっと用があるから。」

そう一言いうと、彼は身を翻しました。そしてそのまま、かなり上手に皆から離れると境内から消え去って行ったのでした。後にはきょとんとした感じの蛍さんと、彼の後ろ姿を満足気に見送る茜さんの2人だけがとり残されました。成る程、『そうやるのね。』茜さんは内心頷きました。

 蜻蛉君が去った後、今や自分に対しても険悪な雰囲気になった蛍さんです。茜さんも一刻も早くこの場を去りたくて堪らないのでした。しかし従妹の手前、彼女はこれ見よがしに蜻蛉君に続いて直ぐに退散とは行きません、仕方なく従妹の様子をちらちら見ては頃合いを計ってみます。彼女は機嫌の悪い蛍さん相手に、もう1ゲームしよう等と愛想よく持ちかけてみました。蛍さんがえーっと渋っている間、茜さんはあれこれと蛍さんに話し掛けながら、今迄の蜻蛉君とのやり取りについてこの間の間を持たせる間に考えてみました。

 『彼は、あの様子では、皆の言う通り相当大きな家に繋がる子なんだわ。』

この時、彼女は蜻蛉君についての世間での噂を知っていました。ここでの彼の家は出店の様な小さな借家だが、どうもそれに見合わず暮らし向きが相当派手だとか、通帳の貯金高がかなり大きいとか、高額の入金先が都心にある、可なり近しい親戚らしい、しかも相当な富豪らしいとか、どうも蜻蛉君自体がそこの御曹司になるらしい等、女の子にすれば本当に玉の越しになりそうな夢のような家らしい、という噂話を聞いていました。

 また、そんな大きな家の者が何故こんな地方に、しかも隠れるようにして住んでいるんだい、という話。何でもその家は、相当恨みをかっている家らしい、それでこんな地方に来て隠れるようにして住んでいるんだ。とか、その恨みも、恨みも恨み、怨霊になるくらいの物に取り憑かれている家だそうだ等、彼女の周りの人々は口さがないのでした。