そいつは気の毒だったな。蜻蛉君は顔を顰めると、いかにも自分の方も痛そうに彼女に優しく言葉を掛けるのでした。しかし
「それはやはり偶然だよ。」
と、一寸片手を口にやると、その口の端の笑みを隠しながら事も無げに茜さんに言うのでした。敏感な彼女は彼のその忍び笑いにもちゃんと気付きました。そこで茜さんは少しムッとすると、
「でも、ほんとに、あの子を怒らせると怖いのよ。」
と苛ついた声で言うと次の説明を始めました。
祟られるというか、取り憑かれるというか、人は死ぬと怨霊だけど、まだこの世にいる子だから生霊とか言うんでしょう、皆がそう言ってたわ。それになって憑りつかれているみたいだって、兄も伯父さんも、この場合おじは母方の兄の事よ、等と彼女は説明するのでした。
「怨霊」の言葉が出ると、途端に蜻蛉君の顔は青ざめました。彼は茜さんからふらふらと離れて行くと力なくその場にしゃがみ込みました。その時彼の目は動きを止め、利発そうな目の光も消え失せたようになりました。彼は酷く沈んだ雰囲気に変わったのです。
「怨霊だって、嫌なこと言うなよ。」
と、茜さんに対して抗議する声もか細く小さくなり、気持ちも相当に沈み込んで闇の中に落ち込んでしまったような気配です。この彼の様子に、茜さんは気に止める様子もなくすまして次の言葉を続けました。
「祟りよ祟り!」
特にあの子にしてない事をしたとか、やってない事の濡れ衣みたいな物を着せると、それはもう、それはもう…