「お前は嘘つきじゃ無いねぇ。」
ぽろんと口から零すように母は言った。えっと、私は思った。意外な言葉だった。母が父と似ていると思ったばかりだったから、父とのこの相違が意外だったのだ。私は目を丸くした。
「お、お母さんは、私を嘘吐きだと思わないの?。」
思わずそう母に尋ねた。
母は今暫く何かを考えているらしく無口だった。私は母と父のこの相違が嬉しくて、如何して彼女が私を嘘吐きと思わなかったのか、その点について知りたくてあれこれと彼女に話し掛けた。どんな点が母に私が嘘吐きでは無いと判断させたのか、それを知っておきたかった。
「何が、何を見て私が嘘をついてないと思ったの?。」
そんな事をせっせと尋ねてみるのだ。が、母はああ、ええとか言うだけで、キチンとした答えを返してこなかった。その内、考えあぐねたように、
「兎に角、お前は嘘吐きじゃ無いよ。」
嘘は吐かないけど…。と言った。
「お前話を誤魔化すだろう。」
そんな点があの人には誤解されているんだろうね。彼女は考えながらそんな事を言った。
「お前もお前だよ。嘘じゃないなら嘘じゃないと言えばいいんだよ。」
彼女が如何にも助言めいてそんな事を言ってくれるものだから、私は正直に父の事を母に言ってみようという気になった。
「嘘じゃないと言っていた。割合何時も、結構長い間。」
「じゃあ何故、あの人はお前の事をあんなに言うのだろう。」
母が言うので、あんな?あんなの内容について私は彼女に問い掛けた。
「あんなって、お母さんの言うあの人は、お父さんの事だよね、お父さんは私の事を何て言うの?。」
母はしまったという様な顔をしたが後の祭りだった。母は勿論私にその内容を正直に言う筈が無かった。言い淀んでいる母の姿に、彼女の今迄の言葉を思い出して私は父の言っているだろう言葉が大体想像出来た。
「言わなくていいよ。大体分かるから。」
困った様子の母に遂に私は言った。母はそんな私の元気の無い言葉にやや意を決したように小さな声でうそ…と言い掛けたが、その先は私に想像がついていたので、
「外で遊んでくるね。」
大きな声で母の言葉を打ち消すと、私は即座にだっとばかりに縁側から廊下に飛び出した。今回は母も引き止めたりしなかった。あっと何やら言葉にならない声を発しただけで、私の事をその儘見過ごしてくれた。