私が不思議そうに部屋の中を見回していると、祖母はそんな私に何をしているのだと問い掛けて来る。
「お父さんを打った人がいるかと思って…。」
私が答えると、祖母はふんとばかりに立腹した様子だ。頬を紅潮させた彼女は目付きも険しい様子で私を睨んだ。
「お前以外誰がこの部屋にいると言うんだい。」
「自分のした事を人様に被せようたって、そうは行かないよ。お前しかここにはいないんだからね。」
祖母は決めつけるような感じできっぱりと言った。私の目には祖母の凛とした態度や、改まった言葉付きが斬新に映った。非常にポカンとした感じで祖母を見詰めた。
そんな中、私は思いついた儘に「お祖母ちゃんだっているけど。」と言った。この部屋には父以外にお祖母ちゃんもいるじゃ無いか、私1人じゃないけどと、私の目にはあくまで冗談めいて映る、その場の父と祖母に合わせる様に言うと、ふふふと私は茶目っ気たっぷりに笑って見せた。
そんな私に祖母は唖然としたようだ。私に続いて父の傍、ポカンとした感じで口を開けた。そしてやや口ごもって私のあっけらかんとした顔を見詰めていた。が、
「じゃあ、お前、…本当にここに何もしていないんだね。」
と、自分の息子である父を私に差し示した。私がうんと頷くと、祖母は視線を落とした。彼女は沈み込んだ感じになって父の横に座した。
父は相変わらず畳の上に四つん這いになった儘だったが、私が俯いている父の顔を覗き込んで見ると、彼は両眼を閉じて口も結んだ儘、取り立てて何という表情も浮かべてはいなかった。そして彼は今は何の言葉も口にしてはいなかった。
きちんと正座した祖母は、その場で暗澹たる面持ちを浮かべ視線を落としていた。彼女の視線は父を見ているという物でもなかった。彼女は頭の中で何か考え事をしている風だ。私の方は、自身が何も言われなくなった事で、これで祖母は私が潔白だと了解してくれたのだと安堵していた。と、祖母は伏し目がちに私をちらちらと見上げ、顔を上げると、
「やはりお前が何かしたんだよ。」
と言い始めた。
何かしたというより、彼女は呟くように言うと、「お前、この子に何を言ったんだい。」と問い掛けて来た。何をと言われても、私に心当たりはなかった。
今しがた、私は自分の事を嘘つき呼ばわりする理由を父に問い掛けていただけの事だ。その事をそう言うと、祖母はそれじゃないねと言う。その後は?、と言われれば、父の去る後ろ姿に、私は当時の男の子の遊びの場面を思い出し、色々覚えた言葉を口にしていたと祖母に言った。
「どうやらそれだね。」
祖母は合点したように頷くと言った。
やっぱりお前が…、と彼女は言い出した。次には私が悪いと言われるのだなと、私は祖母の次の言葉を予想するとうんざりして来始めた。その時、部屋にある階段の上からお義母さんと声が掛かった。私の場所からは聞き取り難い声だったが祖母はその声に反応した。