Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 118

2019-12-09 17:38:09 | 日記

 私が不思議そうに部屋の中を見回していると、祖母はそんな私に何をしているのだと問い掛けて来る。

「お父さんを打った人がいるかと思って…。」

私が答えると、祖母はふんとばかりに立腹した様子だ。頬を紅潮させた彼女は目付きも険しい様子で私を睨んだ。

「お前以外誰がこの部屋にいると言うんだい。」

「自分のした事を人様に被せようたって、そうは行かないよ。お前しかここにはいないんだからね。」

祖母は決めつけるような感じできっぱりと言った。私の目には祖母の凛とした態度や、改まった言葉付きが斬新に映った。非常にポカンとした感じで祖母を見詰めた。

 そんな中、私は思いついた儘に「お祖母ちゃんだっているけど。」と言った。この部屋には父以外にお祖母ちゃんもいるじゃ無いか、私1人じゃないけどと、私の目にはあくまで冗談めいて映る、その場の父と祖母に合わせる様に言うと、ふふふと私は茶目っ気たっぷりに笑って見せた。

 そんな私に祖母は唖然としたようだ。私に続いて父の傍、ポカンとした感じで口を開けた。そしてやや口ごもって私のあっけらかんとした顔を見詰めていた。が、

「じゃあ、お前、…本当にここに何もしていないんだね。」

と、自分の息子である父を私に差し示した。私がうんと頷くと、祖母は視線を落とした。彼女は沈み込んだ感じになって父の横に座した。

 父は相変わらず畳の上に四つん這いになった儘だったが、私が俯いている父の顔を覗き込んで見ると、彼は両眼を閉じて口も結んだ儘、取り立てて何という表情も浮かべてはいなかった。そして彼は今は何の言葉も口にしてはいなかった。

 きちんと正座した祖母は、その場で暗澹たる面持ちを浮かべ視線を落としていた。彼女の視線は父を見ているという物でもなかった。彼女は頭の中で何か考え事をしている風だ。私の方は、自身が何も言われなくなった事で、これで祖母は私が潔白だと了解してくれたのだと安堵していた。と、祖母は伏し目がちに私をちらちらと見上げ、顔を上げると、

「やはりお前が何かしたんだよ。」

と言い始めた。

 何かしたというより、彼女は呟くように言うと、「お前、この子に何を言ったんだい。」と問い掛けて来た。何をと言われても、私に心当たりはなかった。

 今しがた、私は自分の事を嘘つき呼ばわりする理由を父に問い掛けていただけの事だ。その事をそう言うと、祖母はそれじゃないねと言う。その後は?、と言われれば、父の去る後ろ姿に、私は当時の男の子の遊びの場面を思い出し、色々覚えた言葉を口にしていたと祖母に言った。

「どうやらそれだね。」

祖母は合点したように頷くと言った。

 やっぱりお前が…、と彼女は言い出した。次には私が悪いと言われるのだなと、私は祖母の次の言葉を予想するとうんざりして来始めた。その時、部屋にある階段の上からお義母さんと声が掛かった。私の場所からは聞き取り難い声だったが祖母はその声に反応した。


うの華 117

2019-12-09 09:40:42 | 日記

 私はその後も、聞き覚えた子供達の合戦ごっこの言葉を思い出す儘につらつらと並べてみた。こんな時流通している決まり文句は耳に通りがよく、口に滑らかだった。話すに連れ気持ちも高揚してくるようで、ついポンポンと飛び上がり身も弾んでしまう。

 と、父はがくりと畳に膝を落として何やら呟いた。その後も私がポンポン弾む毎に両膝を畳に付き、手を着いて、遂には四つん這いの状態で何やら独り言を発し続けている。私はそんな父の、1人相手も無く四つん這いで話続ける動作を不思議に感じて、彼はあんな所で1人何を言っているのだろうかと疑問に思った。そこで意を決すると、少しずつ隣の部屋の父の方へと近付いて行った。

 私が父の言葉が聞き取れる場所まで来ると、彼は嫌だ嫌だ、止してくれ、等言っている。見回してみても父の周囲はおろか私自身の周囲にも誰もいなかった。何だろうか、これは何かの儀式だろうか?これから何か始まるのだろうかと私は思った。

 父は時折、座敷の仏壇を開くと経本を開き、中のお経を読み始めた。それと同じ事で何かの祝人を唱え始めたのかと私は思った。

「もう勘弁してくれ。」

そこまでしなくていいだろう…。そんな言葉が父の口から出て来るようになると、これは一寸と妙だなと私は感じた。そこでお父さんと、目の前に伏せる彼の肩にちょんと手を当てた。

「止めてくれ!。」

父が大きく言うので、私は何事かと思った。次に彼が言った言葉、蹴らないでくれ!、という言葉に、場違いな奇妙な事を言うと、私が目をぱちくりさせて驚いていると、座敷から祖母が顔を出した。

 祖母は緊張した面持ちで父の傍に寄ると、

「如何したんだい?。」

と私に訊いた。訳の分らない私には答えようが無かったので、さぁと言って黙った。

父は俯いた儘ぶつぶつ言っていたが、私にはよく聞き取れなかった。祖母はそんな息子の言葉が聞き取れたらしく、

「お前お父さんをぶったのかい!?。」

とやや険しい顔で私に問い掛けて来た。これは私にとっては意外な質問だった。予想さえしていなかった言葉だ。即座に違うと答えたが、そう言えばついさっきも父は打たないでくれと言っていたなと思い出した。父は誰かに打たれたのだろうか?。私はきょろきょろともう1度部屋の中を見回してみたが、やはりそこには父と祖母、私の3人以外の誰も見えないのだった。