「ねえねえ、おばさん、おばさんなんでも知っているんだねぇ。」
「内の家では何があったの?、おばさん知ってたら私に教えてくれないかなぁ。」
私は柔和な笑顔を浮かべると、如何にもおねだりするという様に問い掛けてみた。おばさんの方はおやという感じになると、智ちゃん知らないのかい、と言う。
「知ちゃんたら、一緒に住んでるのに知らないのかい?。」
これはまた妙な話だね、ねぇ、お前さん。と、何やら店先に近付いて来たご主人に、如何にも自分達の話に彼を引き込むという様に声を掛けた。ご主人は云まぁと何やら自分の手を店前の机の所で動かしていたが、その内ひょいとこちらに顔を向けると、
「四郎ちゃんの事だろう。」
と言った。
そんなご主人に、奥さんは目で合図してこっくりと頷くと、ご主人は溜息交じりで手を動かし始めた。ねえねえ、お前さん。奥さんが再三声をかけると、俯き加減で机の側にいたご主人だったが、その内そろそろと私達の話している場所までやって来た。
「四郎ちゃんは何時もああでなぁ。」
仲間内の世間話のように、彼は徐に言いだすと、あんたさんの家がね、今日みたいにバタつく時は、決まって四郎ちゃんが原因なんだよ。大抵はそうだ。と溜息交じりで言った。そして奥さんに、じゃあ後は任せたよと言うと、二郎ちゃんがいてくれればなぁ、とか、奥さんも苦労だね、等呟きながら、また仕事の続きを続ける為か、元の机の有る場所へと戻って行った。
「分かったかい。」
彼の奥さんである。私の目の前に残ったおばさんは言った。
私は考えてみた。四郎ちゃんと言うと私の父だ、父が原因?、家がバタつく?、私には訳が分からなかった。そこで頭の中で、今ここのご主人が言った言葉を繰り返して推理してみるが、やはり何がなんだかさっぱり分からない。私には我が家で起こっている出来事が全く想像もつかなかった。
盛んに首を捻る私を見ておばさんは言った。
「鈍いねぇ。」
「まぁ、あんたのお母さんも、この辺りでは分からなかったらしいから仕様が無いか、親子だね。」
『お母さんと?…。』私は彼女の言葉の最後に顔を顰めた。