Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 116

2019-12-07 19:38:12 | 日記

 あれぇ!?。私は意外に思った。彼はこれ迄、如何にも父親然としていた筈だ。何時も私の質問にはきちんと答えて来たのだ。それが今回は違っている。彼は顔や体の正面をこちら側に向けているとはいえ、後退りをして確実に私から遠ざかって行っているのだ。

 『もしかして…、』

私は思った。父は私から逃げているのだろうか!?、私は驚いた。父に比べれば私は未だ未だほんの子供だ、怖がられる事は無い筈だ。そう考えると、次に、父は私を嫌っているのだろうか?、そんな風にも考えてしまう。一体如何言う事なのだろう?。彼は私の問いに答えたくないのか、もしかすると彼は答えられないのか?。

『そうすると、父の方が嘘を…。』

父の方が嘘を吐いているのかと、私はそんな事を考えながら何も気づかない振りをしてそ知らぬ顔をしてみた。

 私は父の顔付きと足運びを内心不審に思いながら、それと無くこれらを交互に見比べていた。するとその内私の心の中には段々と失望感が広がって行った。いくら私が幼いとはいえ、この父の様子から彼が私の問いに真面に答えて来ないだろう事は窺い知れた。私は失望感でがっかりした。ついつい肩を落としてシュンとした感じになって仕舞う。さりげなく無表情に体面を保つ父の顔より、引き下がって行く足の方にばかり視線が注がれてしまう。

 すると、漸く彼は私の注意が自分の足に届いた事に気付いたようだ。彼は素知らぬ顔付きの儘だったが、捉えどころの無かった目の焦点を私の顔に合わせた。そして一瞬ちらちらと考え事をするように黒目が動いたが、次に彼の瞳はぱっと生気を帯びた。と、父は言った。

「今日はこの話はしない事にする。」

そう言った彼は、その儘ゆっくりと私に背を向けると、やはりゆっくりとした足取りでその儘居間を進み次の部屋に入った。

 私はその場に佇んだ儘でそんな父の後ろ姿をぼんやり見送っていた。と、次の間に進んだ父が不意にひょいっと頭を下げて一瞬屈みこむような身の仕草をした。そして後方にいた私を振り返った。私が相変わらず元の場所にいるのを確認した父は、お前そこにいたのか。と言った。

 ずっとそこにいたのかとか、すぐ後ろに居てそこまで急いで飛び下がったのかとか、彼は私に問い掛ける様に言って来たが、私はこの場にいて動かなかったと答えると、父は解せないなぁと言った。大抵この辺りで飛びかかって来るんだが、そんな事も言って考え込んでいる雰囲気だ。そんな彼は相変わらずこちらに背中を向けた儘でいた。

 私はそんな父の背中に、その頃遊んでいた近隣の男の子達の言葉を思い出した。主に年嵩の彼等は2手に分かれると、1組5~10名程度の人数同士で取っ組み合う遊びをしていた。時には形を整えた騎馬戦等もしていた。勿論私の様な年端のいかない者達は陰で離れて観戦するだけなのだが、見ていると、旗色が悪くなった組が逃げ出しに掛かると、優勢な組の方は逃げる相手を散々罵倒して囃し立てたものだった。

 「敵に後ろを見せる卑怯者!。」「戻って来て最後迄戦え!。」「情けないぞ!…。」等。私は父の背を見詰めている内に、遊び仲間の彼等のこの囃子言葉を頭に浮かべていた。

「敵に後ろを見せる卑怯者。」

私は口に出して呟いた。


うの華 115

2019-12-07 18:40:39 | 日記

 「お父さんは何故…。」

私は父に如何言ったものかと言葉を考える為に沈黙した。何でも分かってくれない父の事だ、この時の私は故意にそう思った。きちんと父に分るような言葉で話さなければ、人の言いたい事が彼には伝わらないぞと自分に言い聞かせ、彼の事を見くびる事にした。

 『先ず、何時、何処でだったな。』と思う。何故はその後でいいかなと聞く順番や、その時に使う言葉を考えてみた。

「お父さんは、何時、何処で、」

そうだなこの言い方でいいと私は頭の中で反復してみる。

「私がどんな事をしたから、」「何故、私が嘘吐きだと思ったの?。」

父は、えっという様な顔をした。思いも掛けなかった事を私が言い出したという様な感じで如何にも鳩が豆鉄砲を食らったような顔付になった。ややぽかんとした形に口を開いた。

「私が嘘吐きだという理由があるから、お父さんはそういうんでしょう。」

私はその出来事を話して欲しいと訴えると、それは何時の事でどんな出来事だったのかと真っ向から父に問い掛けた。そして父の言葉の根拠を問い質した。

 父は顎に片手を遣って、そのまま顎を押し上げるような形で彼の開いていた口を閉じた。ちゃんと話してくれという私に、如何ともいえ無い様な表情をした。彼は思案する様な、後悔するような、少し沈んだ感じで目を伏せると俯いた。嘘なぁとか、何時、どんな、と言われてもなぁと、彼は呟いていたが、

「お、覚えが…。」

と口ごもる様に、顔を上げて私に向かってそう言うので、私はこの父の言葉に、私の方に覚えが無いのかと問われたのだろうかと、彼から視線を外して考えてみた。私はそう言った出来事を忘れているのだろうか?。否、全然心当たりはない。

「全然そんな、私には嘘を吐いた覚えが無いけど。」

そう言って私は父を見直した。

 すると、やや父の顔が小さくなった気がした。私はこの事にちょっと不思議な感じがした。が、それより、父の言葉の根拠になる、過去に起こった出来事の真実を知りたい、そちらの方が優先だと考えた。この変化を気にせずに私は言った。私の方に全く覚えが無いので、父の方から私に分る様にきちんとその出来事を話して欲しいと迫った。

「お父さんは、その出来事を知っているから、私の事を嘘吐きというんでしょう。」

ちゃんと言ってくれと私はきっぱりと父に言った。本当にそんな出来事があったのなら、嘘でないなら、ちゃんと私に言えるはずでしょうと言うと、私はそれこそ父の方が嘘をついているのかという剣幕で問い質した。

 父の方は私が問いかけていたこの間、殆ど何も言葉を発しなかった。私の何がいけないというのだろうか?私は沈みがちに目を伏せた。が、次の瞬間、思い立ったこの時に、きちんと物事を問いたださなければ、何時彼に問い掛ける事が出来るのだと気持ちを奮い立たせた。私は内心ふん!とばかりに勢いをつけると、自分の視線を上げて父を見た。

 すると、じりじりと動く父の足、彼が後方へと少しずつ引いている足に気付いた。父はゆっくり後方へと下がり、私からの距離を開いていたのだ。それで父の顔が小さくなったように感じたのだった。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-12-07 18:38:32 | 日記
 
洋梨(pear)の思い出
 その時の私に、心中複雑な思いが去来していたのを理解出来た人はいるでしょうか?。幸いその時、側にいた友人は「無いなら貸してあげようか?」と、私の指に触れている紙幣のかげんを察して助......
 

 今日は寒かったです。冬に室内に取り込む鉢の準備をしました。