Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(230)

2018-10-19 10:26:24 | 日記

 また後日の事です。祖父母が孫娘達の喧騒に気付いた頃、蛍さんの父は自分の娘が諸行無常や孤独について語ったという事を、自分の母に自慢げに話すのでした。はしかい(賢い)子だろうと目を細める息子に、

「まぁ、あんなに小さくて諸行無常をね…」

と、祖母は『この子はまぁ、何て親馬鹿になった事。』と、孤独は如何であれ『これは何かの間違いが起こっているに違いない。』等と彼女は判断すると、はいはいと、表面にこやかな笑顔を浮かべながらも、ジロジロと息子の顔を観察するのでした。まぁ、あの子をここへ呼んでおいでと息子に言い付けると、どれと、茜の件もあるし蛍にも言い分を聞こうじゃないかと彼女は考えるのでした。

 「お祖母ちゃん、なあに?私に話しって。」

蛍さんは父に祖母の所へ行くように言われると早速にやって来ました。父は何やら笑顔で彼女に、「お祖母ちゃんがお前に話が有るそうだ。」と言ったのでした。加えて、「きっとご褒美がもらえるぞ。」と付け加えたものですから、蛍さんは何だろうと期待に胸を膨らませていました。思わず手が先に出てしまいます。

 「ああ、うん…?」

祖母は蛍さんの広げた紅葉の様な掌を見て、何だろうと思いましたが、それはまた後で解明しようと、先に茜さんの件から話しを始めました。

 「お前茜ちゃんとこの前遊んだ時ねぇ、」と彼女は始めました。皆が留守の時だよ。そう言われて、「ああ」と蛍さんは何日か前の事を思い出しました。

「茜ちゃんとまま事した時だね。」

と、蛍さんは答えます。『まま事か』と祖母は思います、「ああそうだよ、まま事した時だけどね、」ちょっと一呼吸おいて祖母は続けました。「お前手に何を持っていたんだい?。」「手に?、何も。」と蛍さんは答えます。『何も、か。』祖母は思いました。


土筆(229)

2018-10-18 10:23:52 | 日記

 まま事なら、そうね、今茜さんと遊んでも良いなと笑顔を浮かべご機嫌になる蛍さんでした。先ほどまでの機嫌の悪さは何処へやらという状態になると、嬉しそうに茜さんと架空の物、スルメのやり取りでまま事を始めたつもりの蛍さんです。そして…。

 わぁーんと、「ホーちゃんの意地悪!」と言う声と、バタバタと茜さんが目の前から走り去っていく足音。茜さんが泣いて帰ってしまうまでそう時間はかからなかったのでした。まま事遊びの最中で、遊びを楽しむ笑顔そのまま、訳の分からない蛍さんはきょとんとしました。彼女はまた家に取り残されて1人きりになってしまったのです。

 が、茜さんが泣きながら玄関を飛び出して行くと同時に、入れ違いで隣の伯母さんが玄関口に現れました。彼女は自分の娘の取乱した様子に、後方からくる義弟夫婦を見やり二言三言声をかけると、娘の茜さんの後を追いかけて隣の自宅へと消えました。その後はすぐに玄関口に蛍さんの父、母と姿を現し、彼等は家にバタバタと入って来たのでした。

 「何だっていうんだか。」

父はご機嫌斜めらしく苛立った声を上げました。ふんという感じで畳にふんぞり返ると、後から続く母にお茶でもくれと云いつけました。母は触らぬ神に祟りなし、という風情です。にこやかな笑顔で何も言わず台所へと消えて行きました。彼女は部屋を横切る時にちらっと娘の蛍さんの顔を見やって行きましたが、彼女のその顔も父に負けず劣らず不機嫌そうでした。

『こんな子供のせいで叱られるなんて。』

二人の胸中にはむかむかと湧き上がって来る感情が有るのでした。二人は兄嫁から、子供をほっぽって遊んでいるなんて、2人共如何いう親なのかと意見されたばかりなのでした。しかも、あなた達の子供まで家で面倒を見ている、家の子が世話しているのだと文句まで言われて来たのでした。そして…、この後からも兄弟両家の間では一悶着起こる気配は濃厚でした。

 後日、蛍さんは、「美味しい物は独り占めしないで、ちゃんと人にも分けてあげるように。」と思ってもみなかった事を父から注意されるのでした。美味しい物って?と問い掛ける蛍さんに父は「例えばスルメとか。」と答えるのでした。「お前茜に分けてやらなかったんだろう、可哀そうに、大泣きしていたそうだ。」と、父は目を怒らせて蛍さんを諭すのでした。全く身に覚えのない蛍さんが、その後茜さん同様大泣きしたのは言うまでも無い事でした。


土筆(228)

2018-10-17 10:17:13 | 日記

 ?、…へえ、ええ、と、彼女はあれこれ考えていましたが、そう間を置かずに、

「そんな美味しい物をねぇ。」

と言うと、ホーちゃん1人で食べていたんだ、とにこやかに言い出しました。

「ホーちゃん、スルメ食べてたんだ。」

という茜さんに、蛍さんは行き成り降って湧いた様な茜さんの話の展開が呑み込めず、「スルメ!」と突拍子もない声を発すると目を丸くして驚きました。茜さんの方はそんな驚いた蛍さんの顔に『ああそうか、スルメを知らないんならあっちの言い方か。』と、

「アタリメ持ってるんだ。」

とにこやかに言うと、私にも頂だいと蛍さんに向かって手を出しました。「美味しいよね、アタリメ。」と言う彼女に、蛍さんはアタリメって何なのかと尋ねました。スルメなら知っているけど、アタリメは知らない蛍さんでした。その事を茜さんに言うと、アタリメはスルメの事だ、同じ物よという答えでした。それで、蛍さんはスルメが如何かしたのかときょとんとした顔で茜さんに尋ねました。

 茜さんは、蛍さんが恍けていて、美味しいスルメを独り占めして自分に寄越さない気なのだなと思うと、私も好きだから頂だいと差し出した手をニギニギと、指を開いたり閉じたりして催促しました。蛍さんはその手を見て顔をしかめて考えていましたが、そうか!と思い付きました。茜さんはまま事を始めたのだと思ったのです。架空の物のやり取りをしてするまま事を、つい先日蛍さんは茜さんから習ったばかりでした。

『もう私は、そのやり方覚えたのよね。』

蛍さんは嬉しそうに小利口ににんまり笑うと、目を輝かせて、スルメを手に持ったふりをして拳をほいと茜さんに差し出しました。


土筆(227)

2018-10-16 10:58:20 | 日記

 そうか、祖父母が頼んだのかと思うと、蛍さんはやはり祖父母は自分の祖父母なんだなぁと嬉しく思います。彼女の内にはほっとした安堵感が広がり、祖父母に対しての穏やかな信頼感が増すのでした。

 唯、この時の蛍さんは茜さんと遊びたいという気持ちにはなれませんでした。

「大丈夫、1人でも平気だから。」

と蛍さんは茜さんに言うと、帰ってもいいわよと言い出すのでした。しかし茜さんにとっても頼んで行ったのは自分の祖父母です。勝手に帰ると言う訳には行きません。

「駄目よ、ホーちゃんまだ小さいんだから、1人で家にいちゃいけないわ。」

と、一緒にお留守番しようねと言うのでした。それから茜さんは言いました。ホーちゃん、お家のこんな所で1人で座って何してたの?きょろきょろと茜さんが見渡す場所には、遊び道具など一切ないのでした。ポツンと部屋の中央に近い所で蛍さんはしゃがみ込んでいたのです。問われた蛍さんは答えました。

「孤独を噛みしめていたのよ。」

 孤独?茜さんには聞いた事のない言葉でした。何しろ彼女には兄が2人いて、母にしても何時も家にいて一緒です。隣の家は祖父母の家であり、外に出ればすぐに親戚、遊び相手も近隣に多くいました。彼女は今まで1人になったことなど無いのでした。当然、孤独など感じた事が無いのでした。そんな言葉を言う人間も彼女の側にはかつて誰もいなかったのです。


土筆(226)

2018-10-15 12:48:01 | 日記

 空しいというのはこう言った状態の事を言うのかと、蛍さんは納得しました。彼女は父の呟いた言葉が今実感として自分には分かったと思ったのです。

 「ホーちゃん。」

自分を呼ぶ声が聞こえました。蛍さんはあれ?っと思います。今家には1人なのですから、誰も自分を呼ぶ人などいるはずがないと思うのです。それで彼女は黙っていました。家には自分1人なのだ、しゃがみ込むと彼女はポツンとして孤独を噛みしめてみるのでした。

 「ホーちゃん。」

おやっと彼女は思いました。どうやら声は茜さんの声に似ています。彼女は耳を澄ませてみました。「ホーちゃん、いないの?」声は段々自分に近付いてくるようです。ここまで来ると彼女にも従姉妹の茜さんが家にやって来たのだという事が分かりました。『茜ちゃんだ、如何したんだろう。』自分の事をお寺に1人置いて、用があるからと言って帰って行ったのに、蛍さんは不思議に思いました。

 「ホーちゃん、…何だ、居たんだ。」

入口から顔を出した茜さんがほっとしたように言いました。「返事をしないから、いないのかと思った。」と言う茜さんです。

 「如何したの?茜ちゃん、用があったんでしょう。」

蛍さんが少々咎める様な声でいうと、茜さんはドキンとしましたが、うん、用はあったんだけど、と、もう済んだから等と言ってから、「それより、ホーちゃん、家に一人で寂しいでしょう、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんが心配してたわよ。」そう言って自分が何故此処へやって来たのかという理由を蛍さんに説明するのでした。