彼は家内と孫、何方から問題を解決したらよいかと考えました。当然、孫にはその子の問題を解決しなければならない親という者がいるのですから、孫にはきっぱり背中を向けると、この家には自分しか面倒を見る相手がいない妻に向かい、あれこれと語り掛けました。
「お前さん、どうしたんだい。」
そんな事を言いながら、彼女の手を握って摩ったりします。すると漸く妻は夫の言葉に反応しました。
「鳥もちがね、」
彼女は言葉にしました。鳥もち?祖父には何の事か分かりません。
「鳥もちがね、多分、あの子の言う鳥もちはその鳥もちだと思うのだけど、」
と、蛍さんの祖母は、「私の言った取り持ちと、あの子の言ってる鳥もちとがね、何やら言葉が入り混じっているんだよ。」と言います。はてさて、何処で混ざってしまったものかと、祖母は呟くと、顔を曇らせて、これだから、自分の子供の時にも苦労したけれど、孫にまで同じ苦労をするなんて、と、「本当に、これはお釈迦様でもごご存知な事に違いないねぇ。」と、蛍さんの顔を見て、自分の駄洒落めかした言葉につい吹き出してしまいます。蛍さんの頓珍漢な言葉の取違に思い当たった祖母は、遂にハハハ…と大きな笑い声を立てて、愉快に笑い出したのでした。
「母さん、大丈夫なのかい!」
蛍さんの祖父はもう大慌てです。「確り、母さん」、「正気に戻ってくれ」、と、血相を変えてもう真剣そのもので蛍さんの祖母の肩に取り付きました。体を揺すって、妻の両手を持って、彼女の顔を覗き込んで、切々と語り掛けるのでした。