『私は普通何でも1回聞けば分かるんだよ。』
ふふんと、本心はやや腹立ちながら、可笑しそうに祖母は心の中で呟きました。さてと、彼女は蛍さんが話し出すのを待ち構えていました。
「どんな美人の人でも、」美人ね、あの絵の女の人の事だねと彼女はお寺の1枚の画を思い浮かべました。
「あの絵の女の人は美人かしら?」
そう孫に問いかけてみます。
祖母に急にそう言われた蛍さんの方も、「うーん」とここで言葉をとぎらせて、絵に描かれていた女の人の十二単の美しさを思い浮かべてみました。
「奇麗だよ」
と答えます。「綺麗な着物を着ているし、」と蛍さんが答えると、
「着物は確かに綺麗だけど、」
と、あの女の人の顔はそんなに奇麗かしら?等と祖母は言い出します。
「私にはどうも、あの女の人の顔が綺麗だとは思えない。見えないというか…。」そんな事を独り言のように真面目に呟いてしまいます。
蛍さんはそんな目の前で思い迷う祖母に、
『これは、私がしっかりしてお祖母ちゃんにきちんと諸行無常を教えてあげなければいけないな。』
と、父のようにきちんと教えなければならないと気負います。そこで父が自分に行った時の言葉を思い出します。その時の場面を思い出して、先ず父が言った通りに父の声音その儘で、
「ほら、この絵の人は美人だろう。」こんな美人の人でも、向こうに描いてあるように草葉の陰では1人骨だ。墓も無いんだなぁ。葬ってくれる人もいなかったんだろう。気の毒に。…この絵から分かるように、
「どんな美人の人でも」「それはもういいよ。」祖母が蛍さんの言葉を打ち消しました。祖母にすると、自分が美人と思えない絵の人物にはそうと同意したくないのでした。やや不機嫌に生真面目に孫を促しました。