『これは見ものだな、というより聞き物だな』等と駄洒落の様に可笑しく言葉を考え出してみます。彼女は自分で作りだした言葉に思わず笑顔になると、で、と、「それでホーちゃん、あんた諸行無常が分かったんだって、」と如何にも驚いた顔付で孫に問いかけてみます。
「あんた偉いなぁ、その年でこんな難しい言葉が分かるなんて、」
と、こんな言葉と言うのは、諸行無常だよと説明すると、
「うん、分かるよそのくらいは、この言葉でしょ。」
そう言って、諸行無常の言葉だね、と蛍さんは答えると話し出しました。
「諸行無常と言うのは、孤独と似ているね。」と彼女は言います。
「諸行無常が、はてね、孤独と似た所が有ったかしら?」
と、さてさて早くも怪しげな話になって来た事だと、祖母は心持顔をしかめるのでした。自分や夫の様に初等教育だけしか受けなかった者と違って、大学という所を出た息子は孫に如何いった教育をしているのだろうか?と、常々子育ての先輩に当たる彼女には、いたく興味が湧いているのでした。
「うん、1人になるところが似ているよ。」
と蛍さんは答えます。「1人になる?」確かに孤独は1人になる事だけど、と祖母は思いましたが、諸行無常に如何して1人になる必要が有るのだろうかと不思議に思いました。そこで、
「何で諸行無常だと1人になるの?」と孫に聞いてみました。この祖母の問いに孫は酷く驚いて目を丸くしました。
「お祖母ちゃん、お祖母ちゃんみたいに物を何でもよく知っている人でも、諸行無常は知らなかったの?」
と、これは心して説明しなければと、気負った蛍さんは背筋を伸ばし、ふん!とばかりに鼻から気勢の息を吐き出しました。